ヤングケアラーの実態と問題とは? 企業ができる支援についても紹介
- 2022.06.30
- 予後・リハビリ・介護
- ウェルネスの空 編集部
ヤングケアラーとは、家庭で家事や育児、介護などを行っている子どものことです。昨今では社会問題に発展しており、厚生労働省でも、「子どもが子どもでいられる街に。」をスローガンに、ヤングケアラー支援に乗り出しました。本記事では、ヤングケアラーの概要や実態、起こりうる問題点、企業における対策方法を解説していきます。
ヤングケアラーとは?
日本ではヤングケアラーについて、特に法令で決まっている定義はありません。一般的に大人が行うべき家事や労働などを日常的に行っている子どものことをヤングケアラーとみなしています。主に以下にあるような労働を子どもが行っている場合ヤングケアラーに該当します。
- 障がいや病気の家族に代わり、食事、掃除、洗濯など家事一般を行っている
- 幼い兄弟の面倒を見ている
- 家庭の家計を助けるために労働をしている
- アルコールや薬物、ギャンブルなどで働けない家族に代わって家事労働をしている
- ガンや難病、精神疾患など、慢性的な病気の家族を看病している
(参照:ヤングケアラーはこんな子どもたちです)
アルコール依存症、貧困層などの問題を抱える労働者階級が多いイギリスには、子どもたちに無償で家事労働をさせる家庭が多く存在していました。このような若年層をヤングケアラーとよび、ヤングケアラーへの弊害が取りざたされはじめた1980年代後半から国を挙げての支援が行われるようになりました。
1995年制定された「ケアラー法」には、ヤングケアラーへの教育、経済面での支援などの対策の強化も盛り込まれています。また学校などのネットワークで同じ悩みを持つヤングケアラー同士の交流機関の設立、NPO団体や学校の担当教員、地域ボランティアなどの大人による支援参加など、コミュニティを上げての積極的な取り組みがされています。
(参照:Carers (Recognition and Services) Act 1995)
ヤングケアラーの年齢についても日本での法律上の規定は特にないですが、一般的に18歳未満だと考えられています。一方、オーストラリアでは25歳未満とされるなど、国によって年齢の規定に若干の違いが出ています。
日本で「ヤングケアラー」という言葉が注目され始めたのは最近ですが、イギリスを筆頭に多くの国でヤングケアラーが問題視されているのです。ここからは、日本におけるヤングケアラーの実態について解説していきます。
(参照:三菱UFJリサーチ&コンサルティング ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書(案)令和3年3月)
ヤングケアラーの実態
2020年に厚生労働省が行った調査では、中学2年生の5.7%が家族の世話をしていると回答しています。また、同調査で世話をしていると回答した中学生、高校生に対して、世話の頻度についての質問を行ったところ、50%近くがほぼ毎日行うと回答し、中学2年生では1日あたり平均4時間、高校2年生では3.8時間の世話をしているという実態が判明しました。
(参照:三菱UFJリサーチ&コンサルティング ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書(案)令和3年3月
厚生労働省子どもが子どもでいられる街に。)
また、ヤングケアラーの労働内容としては、食事の準備や掃除、洗濯、見守りや兄弟の世話、家計を助けるための金銭を得る勤労、病気や年老いた家族の感情面のサポートまで多岐に渡ることが分かっています。これらは家庭内で行われているため、近所間の関わりが減少している昨今では、外から見えにくくなっています。
また、小さい頃から当たり前のようにこなしてきている場合、問題意識すら感じていない子どもが多くみられるのです。8割以上の中高生が、自信がヤングケアラーであるという自覚を持っていないという調査結果も出ています。
(参照:三菱UFJリサーチ&コンサルティング ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書(案)令和3年3月)
周囲の大人が気付かず、また子ども自身も自覚のないヤングケアラーの問題は深刻です。厚生労働省が2019年に行った調査では、7人に1人の生徒が貧困家庭であるとのデータもあるため、子どもの社会問題として深刻に捉えなければならない時期にきているといえるのではないでしょうか。
(参照:厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況)
ヤングケアラーの問題点
家庭でのお手伝いと考えると、教育もかねて子どもが自分でできることを手助けしている、ごく普通のことだと捉えられがちです。
しかし、これが1日に数時間、連日行うヤングケアラーになってくると、子どもが普通に享受できるはずの生活ができなくなってしまいます。以下に、ヤングケアラーが抱える問題点について解説していきます。
学業
学生の生活は通常勉強や部活動などで多忙なものです。特に中学、高校は勉強に集中するべき時期だといえます。そのような大切な学生時代に、家事や介護などに時間を取られてしまうと、学業に大きな影響を及ぼすことになるのです。勉強時間を確保できないため、希望の学校に進学できなかったり、進学を断念しなければいけなかったりする子どもが出てきてしまうためです。
子どもの学業に影響を及ぼすことは、将来の可能性を潰し、人生を左右してしまう恐れがあります。教育を受けていないことが、将来の所得の差に結びついてしまうケースが多いためです。
人間関係
家族の世話や家事に時間を取られ、放課後や休日に友人と遊ぶことができない状況は、人間関係にも影響を及ぼしやすいでしょう。このことで、友人や教員など、外部の人間と接する機会が減り、コミュニケーション能力の欠如に陥る可能性が高まります。
さらに家事労働に追われるばかりに、友人との共通の話題にずれがでる、部活動に参加できないため選手に選ばれないなど、孤立を招くことにもなりかねません。
教師からは、遅刻、欠席が多いなどで叱責を受けてしまい、信頼関係が重要な教育者との関係の構築が難しくなる恐れもあります。人間関係に悪影響が出てしまうことは、将来社会に出た際の人間関係構築の不安材料にもなり得ます。
相談先
ヤングケアラー自身も自由な時間がほしい、誰かに自分の負担を代わってほしいなど負担に思っていることが明らかになっています。しかし、多くのヤングケアラーが自分の現状について、話しを聞いてもらいたくても相談相手がいないと回答しているのです。
周りにいる大人は、ヤングケアラーという視点がないことが多く、学校の教員は学業についての相談は行うものの、家族の世話をする悩みや家庭の生活面までは行き届かないことが原因であると考察されます。
また、逆にヤングケアラーである子どもたちの立場から、家庭内の状況を他人に話すことに抵抗があり、話せないという心理的な要因も考えられるでしょう。
そのため周囲の大人や社会は、子どもが自身の悩みを打ち明けやすい仕組みづくりをして、相談できる先がある、一人で悩まなくてもいいと安心できる環境にすることが重要だといえます。
企業ができるヤングケアラーの対策
企業にとってもヤングケアラー対策は重要になってきます。しかし、このような問題は家庭内のことになるため、従業員から自己申告されることはほとんどないと考えられます。
そこで、企業ができる対策は、介護休暇や育児休暇の充実や、リモートワークの推進です。
要介護の家族がいる従業員には、介護休暇をしっかり取れる制度の整備、幼い子供がいる従業員には育児休暇制度を与え、復職サポートを行うなどが対策として挙げられます。また、条件に当てはまれば、国から「介護休業給付金」を受け取れるため、該当の従業員には手続きを紹介する、なども有効でしょう。さらに、労働時間短縮やフレックスタイムの導入など、従業員がフレキシブルに働ける制度の導入で、家庭への負担を減らせるといえます。
また、リモートワークは家事と労働を両立するための大きな助けになると考えられます。働き方改革や昨今の新型コロナウイルスの影響で、以前よりもリモートワークを導入する企業が増えました。しかし、まだまだ十分ではないのが現状です。
リモート環境を整え、リモートワークを推進することは、幼い子どもがいたり、要介護者などがいたりする従業員の負担軽減になるはずです。そのことにより、ほかの家族に負担が行くことを防げるでしょう。
このように、企業ができるヤングケアラー対策も十分あるのです。従業員の働く環境を整えることは、企業の社会貢献のためにも重要だといえます。
まとめ
ヤングケアラーの問題は、近年の日本で社会問題化している重大な懸案事項のひとつです。厚生労働省も相談窓口を設けたり、交流会を紹介したりするなどさまざまな対策を打ち出しています。
ヤングケアラーであることは、学業や友人関係に問題をきたし、将来にダメージを及ぼす恐れもあるため、社会全体でヤングケアラーを支援することが重要になります。
企業もヤングケアラーへの間接的な支援として、介護休業や育児休暇制度を充実させる、リモートワークの選択ができる職場環境づくりなど、参画できることが多くあります。従業員の働く環境をよくすることで、ヤングケアラーのような社会問題にもアプローチできるはずです。
ウェルネスの空では、企業の健康経営®についての情報を、随時お届けしています。ぜひ参考にしてください。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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