介護離職の現状や原因とは 行政や企業の対策について解説

「介護離職」について、正しい情報を把握できている人はそう多くありません。
なんとなく知っていても、どんな実態なのか、どんな制度があるのか、当事者にならないとわからないものです。いつ誰に起こってもおかしくない介護の問題は、企業にとっても重要な課題です。
介護離職の実態を知って、従業員のサポートができるよう施策を検討してみましょう。

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介護離職とは

「仕事と介護の両立」が難しいと判断し、仕事を辞めてしまうことを介護離職と定義します。生活面や金銭的な問題で在宅での介護することになった場合、配偶者または子が世話をすることは避けられません。その場合、介護する人は一日中家をあけられなくなるため、仕事に行けなくなります。

当てはまりやすいのは、親の介護が必要になる、50~60代の人です。多くの経験を積んだ管理職や中堅社員が離職することは、企業にとっても大きな損失であると言えるでしょう。

いわゆる「老老介護」という状況も多く、中高年以上の人が介護することも珍しくありません。体力的な面で世話が難しい場合は、働き盛りである子ども世代が介護を担うこともあるでしょう。

介護離職の現状

総務省による「平成29年就業構造基本調査結果」のデータを見ると、介護離職の現状が把握できます。報告書によると、調査年度の1年間のなかで9.9万人が「介護のための離職」を選択しています。

平成29年度の調査時点で、「介護を行っている人」は、約628万人です。仕事を持っている人は約6割で、多くの人が働きながら介護を行っていることがわかります。

働くすべての人を対象にして算出した場合は、「介護離職者」は1.8%と、そう多い数字ではありません。しかし急速に進む少子高齢化によって、介護をする人も、離職者もさらに増えていく可能性が高いでしょう。

介護離職の原因

離職者した主な理由には、「自分以外に介護を担う人がいなかった」、「体力が持たなかった」、「介護の先が読めず両立の見通しが立たなかった」といった声が聞かれました。

介護離職を選択するに至った背景には、「職場が仕事と介護を両立できる環境ではなかった」というケースも多く、全体の6割を占めています。仕事と介護(手助け)の双方をこなすためには、職場の柔軟な体制と理解が欠かせません。

このことから、体力維持と先の見通しが不安定であることが介護離職を検討するキッカケになっていることがわかります。介護離職を防ぐには、従業員の健康のサポートや心のケアも含めた取り組みが必要です。

参照:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「平成24(2012)年度仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/dl/h24_itakuchousa00.pdf

介護離職における問題

難しい問題を多く抱える、介護離職の問題点について考えてみましょう。
メンタル面や、収入に関しても苦労している従業員はたくさんいます。従業員の声をよく聞いて、実態を把握することが大切です。
以下で詳しく解説します。

収入の減少が激しい

離職することで、当然ながら毎月決まった収入が得られなくなります。また、働く期間が短くなるため、生涯年収が減少し退職金にも影響を及ぼします。

現役世代に支払う年金が減ると、老後に受け取る年金額も減ってしまうのも不安を感じる要素のひとつです。収入がなければ貯蓄も難しくなり、自身の老後資金が不十分になってしまいます。収入の問題は、避けて通れない大切な課題です。

介護離職に関する金銭面の課題は、短期的なダメージだけではなく、ライフプランを考えた際の長期的な目線でも深刻な問題といえます。

心身の負担は軽減できない

退職したからと言って、身体の負担が軽減されるわけではありません。介護に専念することで、かえって肉体的にも精神的にも負担を感じる人が多いという現実があります。要介護者と常に相対する心労や先の見えない不安、収入の心配なども降りかります。

介護離職することで要介護者に接する時間が確保できたとしても、心身の負担はこれまでと変わらずにあるのです。

また、介護の悩みを相談できる相手がいないことで孤独を感じたり、介護の責任やプレッシャーで疲労や不眠になったりするケースもあります。仕事に大きなやりがいを持っていた人は、離職したことへの喪失感から強い後悔の気持ちを持つこともあるでしょう。

再就職が難しく生活が困窮する

介護離職により、積み上げてきたキャリアが断たれてしまうことも課題のひとつです。一度離職すると、過去のキャリアはあまり意味をなさなくなり、復職できる保証もありません。

また介護離職者は40~50代以上の人も多く、もし復職できても再びキャリアを積み上げていくことは年齢的に困難になるケースが多いです。復職しても正社員として働ける割合は低く、収入も以前ほどは望めないことがほとんどです。

介護していた親が亡くなったあとも、自身は生活を続けていかなければなりません。そのため、介護負担が無くなっても経済的負担がずっと続くのです。

行政の対策

介護問題は誰にでも降りかかる可能性があり、多くの人がさまざまな制度に助けられています。

介護離職において、行政はどのような対策をとっているのでしょうか。行政が行っている対策について、以下で解説します。

介護休業と介護休暇

「介護休業制」は、年間93日間を限度として、介護のための休業を認める制度です。93日間は最大3回まで分割可能で、取得開始日より2週間前までの申請が必要になります。この制度は、有期労働契約者(パート・アルバイト・派遣)も要件を満たした場合には取得可能です。

一方、「介護休暇制度」は、介護や通院などの付き添いなどで休暇を取れる制度です。1日または時間単位で取得でき、年5日を限度としています。

介護中でも仕事を続けてもらうため、必要に応じて介護休業や介護休暇を利用してもらうとよいでしょう。

労働時間の制限

介護中の従業員には、「労働時間の制限」を申請する権利があります。企業側としては、従業員の介護が終了するまでの期間、「残業の免除」や「時間外や深夜労働の時間制限」を守らなくてはなりません。具体的には1か月あたり24時間、年間では150時間を超える時間外労働をさせられません。

つまり従業員は、早く帰宅したり勤務時間を短くしたりできるため、介護をしながらでも働きやすくなります。なお、この制度を利用できるのは、適用開始日から3年間です。

介護休業給付金

「介護休業給付金」とは、介護を行う従業員が雇用保険の被保険者であり、なおかつ一定の受給資格に沿っている場合に支給される給付金です。従業員が介護を理由に休業したときの経済的負担を減らす役割を担っているため、対象の場合は利用してもらうとよいでしょう。

介護給付金の支給額は、休業日数や条件によって決定されるため、人によって異なります。手続きは、会社ではなく各地域のハローワークで行います。詳しい金額や適用条件についてはハローワークの窓口で相談してみるとよいでしょう。

介護離職の企業対策

介護を行っている従業員のために、企業ができる対策はどんなものでしょうか。介護離職を減少させるためには、休業や休暇制度を周知させることと、周囲の協力が必要不可欠です。

以下で、詳しく見ていきましょう。

企業内で介護制度を周知する

国が行っている介護制度の内容を、企業内で周知することが重要です。せっかくの制度も、従業員が知らなければ意味を成しません。社内報や掲示板などを利用し、「要介護者がいても仕事との両立ができる道があること」を伝えましょう。

補償制度を広く周知させることで、離職を考えている人も別の方法を検討する可能性があります。また、休暇や休業が取りやすい雰囲気作りも大切です。

メンタルヘルスケアに気を配る

介護中の従業員の中には、「要介護者がいることを人に知られたくない」「介護で休むのは申し訳ない」と、一人で背負い込んでいる人も多くいます。介護に関する悩みを少しでもやわらげるために、メンタル面のフォローは欠かせません。

精神的につらくなって、最終的に離職してしまうケースを防ぐために早い段階でのケアを心がけましょう。社内カウンセラーを常駐させて、相談できる環境を整えておくのもひとつの手段です。

また、厚生労働省の「介護離職防止支援コース」は、介護離職を防ぐための取り組みに補助金がでる仕組みです。こうした公的なサポートも積極的に取り入れてみてください。

まとめ

従業員の介護離職は、高齢化が進む今後さらに増えると考えられています。しかし、介護を担う年代は働き盛りの中堅層が多く、介護離職は企業にとっても大きな損失です。

介護離職の理由としては、体力的な問題や先の見通しが立たない点があげられます。しかし、介護離職しても心身の負担は減らず、むしろ収入面での不安が増える側面もケースもあるでしょう。

従業員の介護離職を防ぐため、行政の介護休業制度や、介護休業給付金の利用が求められます。企業が行う対策としては介護制度の周知と、従業員のメンタルヘルスケアも重要です。

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