ヘルステックとは? 今注目の健康×テクノロジーを分かりやすく解説

ヘルステックとは、医療とテクノロジーを組み合わせ、医療におけるさまざまな諸問題を解決するシステムです。本記事では、ヘルステックの概要や市場規模、ヘルステックが注目されている背景を解説。ビジネスモデルの紹介や、今後の課題、展望なども解説しています。

ヘルステックとは? 今注目の健康×テクノロジーを分かりやすく解説

ヘルスケアビジネスとは

ヘルステックとは

ヘルステックとは、最新テクノロジーを活用して医療分野におけるさまざまな問題を解決したり、健康をサポートしたりしてくれるシステム、またはサービスです。ここでは、ヘルステックの成り立ちやヘルステック業界の市場規模について解説します。

健康とデジタルテクノロジーを組み合わせた言葉

ヘルステックという言葉は、「健康(ヘルス)」と「技術(テクノロジー)」を組み合わせた造語です。近年は、「金融(ファイナンス)」や「教育(エデュケーション)」とテクノロジーを組み合わせて、「フィンテック」や「デドテック」というように、特定の分野とテクノロジーを組み合わせた新産業が増えています。

ヘルステックの中身は、医療や創薬、介護、予防、QOLなどの健康に関する分野と、最新のデジタル技術です。定義としては、医療分野に最新のデジタル技術を活用し、応用した医療サービス、またはそれを生み出すものと考えて良いでしょう。

ヘルステック業界の市場規模は拡大している

ヘルステック業界の市場規模は年々拡大しています。富士経済が調査した2022年ヘルステック関連の市場予測では、3,000億円を超えるとも言われており、2017年比で見ると50%の増加です。
(参照:https://www.fuji-keizai.co.jp/press/detail.html?cid=19009&view_type=1

わずか5年で急拡大した背景には、個人を対象としたセルフケアサービスに加え、法人向けサービス展開の活発化があります。国による「働き方改革」や「ストレスチェック義務化」などの理由から、企業は社員の健康維持・増進に力を入れ始め、関連サービスを導入する動きが高まっていることも理由のひとつです。

また、個人消費者の間でも、健康・美容意識の高まりから、健康情報測定機器や生活習慣改善アプリの利用などが増えています。今後も多くの企業が参入していくとみられており、より一層の市場規模拡大が見込まれるでしょう。

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ヘルステックに活用されているテクノロジー

近年、デジタル技術の発展により、スマホやタブレット以外にも、ウェアラブルデバイスやIoT機器などが身近になりました。これらのデバイスに加え、クラウドやAIの技術を活用することで、これまでなかった新しい医療サービスが実現したのです。

また、これまで個人の医療や健康に関する情報は、紙のカルテに記載され、各医療機関で保管されていました。しかし現在では、「電子カルテ」のシステムなど、医療業界でもICT化が進み、病院との情報共有も可能です。

このような最新のテクノロジーによって、ヘルステックサービスもさらなる進化を続けています。

なぜヘルステックが注目されているのか

近年、なぜこれほどヘルステックが注目されているのでしょうか。おもな背景には、現在の社会的事情が浮かび上がります。ここでは、その社会背景を6つに分けて解説します。

1.医療費による国家予算の圧迫

日本の医療費は現在「国民皆保険制度」によって支えられ、病院の診察代や治療費、処方薬などにかかる自己負担額は抑えられています。しかし2025年には、最も人口が多い「団塊の世代」が後期高齢者になり始める、「2025年問題(後期高齢者増加問題)」が発生するのです。高齢になるほど医療費が増加する傾向にあり、従来の制度では国家予算が圧迫されることは必至と言えます。

この問題に、ヘルステックが注目されています。健康管理アプリや健康情報測定器など、自分で適切な健康管理を行うことができるようになりました。病気になる要因を健康管理によって減らすことができれば、医療費の削減にも繋がるでしょう。

2.地域によっておこる医療格差

全国的に大都市圏や都市圏と比べ、地方の過疎地域では医師や医療施設の数に偏りが多くみられます。そのため、地方では目当ての医療施設に行くために、交通機関が豊富でなかったり、車でも時間がかかったりなど、通院に大きな負担がかかるのです。さらに高齢になるとなおさらでしょう。

このように、地域で起こる医療格差の是正にもヘルステックの活用が進んでいます。自宅に居ながらオンラインで診療が受けられるサービスなど、テクノロジーの力で医療格差を抑えることが期待されるところです。

3. 医師の不足

社会問題でもある「少子高齢化」により、医師や看護師を含む「医療従事者不足」が問題になっています。日本はこの先も高齢者が増え続け、1人の医師が診なければならない患者数も増える一方です。このように、医師不足は、今後の医療業界に深刻な影響を与えると言われています。
こうした問題にも、ヘルステックが注目されています。ヘルステックにより、医療機関における業務効率化が可能になるからです。自身で行える検査キットやオンライン診療の普及により、1人の医師で多くの患者を効率よく診療できます。ヘルステックは医師不足を補う役割も担えるのです。

4.健康寿命の延伸

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を言います。この健康寿命を延ばすことに、近年、多くの人が関心を寄せているのです。内閣府の予測では、今後男女とも平均寿命が延びる見込みで、2065年には女性の平均寿命は90歳を超えると言われています。
(参照:高齢化の現状と将来像
長くなる寿命の中で、できるだけ健康に生活できる期間を延ばしたいという思いから、「QOL(生活の質)」向上や健康寿命の延伸に注目が集まっているのです。

日本では、厚生労働省による「スマート・ライフ・プロジェクト」という、健康寿命を延ばす取り組みが行われています。
(参照:厚生労働省スマート・ライフ・プロジェクト
多くの企業がこの活動に賛同しており、ヘルステックが活躍する場もさらに広がるでしょう。

5. コロナ過による健康意識の高まり

近年、新型コロナウイルスの蔓延により、多くの人が命の不安、健康への不安を感じ、戸惑いました。健康であることの重要性が今まで以上に高まり、普段の食事・睡眠・運動など、生活習慣の見直しを始める人が増えたことも、ヘルステックが注目される理由です。

スマホやウェアラブルデバイスを活用したヘルステックは、個人が日々の健康を容易に管理できます。これにより、生活習慣病などの病気予防や早期発見が行えるようになるでしょう。

6. デジタル技術の進歩

デジタル技術の進歩は、ヘルステックが注目される大きな要因です。スマホやタブレット、PC、ウェアラブルデバイス、IoT機器は一般でも身近になりました。また、AI解析技術も大いに進化しています。これらデジタル技術の進歩によって、それぞれのデバイスから健康データを集め、クラウド経由しAIが解析、利用者にフィードバックするという高度なサービスが可能になりました。

毎日の食事や睡眠時間、一日の歩数、心拍数など、個人のデータを各デバイスで収集、そのデータを活用し、病気を予防するなど、新しいヘルステックサービスが生まれています。

ヘルステックがもたらすビジネスモデル

ヘルステックによって生み出された新しいサービスは、実際にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、それぞれのサービスを解説し、ヘルステックがもたらすビジネスモデルについて考えます。

1.電子版お薬手帳

多くの人が持ち歩く「お薬手帳」が、電子化したものです。お薬手帳は、過去服薬していた薬や、現在服薬中の薬、アレルギー情報も記載されています。医師や薬剤師に提示することで、成分の似た薬の重複や飲み合わせ、副作用歴も確認できる、医療機関の受診にはなくてはならないものです。

電子版お薬手帳では、これらの情報をクラウドで管理しスマホなどから閲覧できます。外出先での緊急受診や災害時など、紙の手帳を持っていなくてもスマホさえ持っていれば安心です。また、服薬情報を薬剤師と利用者で共有することもできます。

2.遠隔診療サービス

「遠隔診療サービス」は家に居ながら遠方の医師による診療を受けられるサービスです。厚生労働省では、「情報通信機器を活用した健康増進、医療に関する行為」とされており、スマホやタブレットなどのデバイスを用いて医師が遠隔地から診療を行うことができます。
(参照:厚生労働省
また、都市部にしかいない特別な疾患を専門とする医師と、その疾患を持つ患者のかかりつけ医との間で電子カルテを共有し診断する行為も該当します。

地域によって起こる医療格差や医師不足、専門医不足の改善に期待は高まっており、過疎地や離島の医療問題にも役立つでしょう。また、新型コロナウイルスの感染対策としても、積極的に導入する医療機関が増えています。

3. AIによる医療現場支援

医療現場では、CT(断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)で取得した画像などを医師が確認し、診断が行われています。見る量も膨大であり、医師の負担も大きいです。しかし、この画像診断をAI(人工知能)が支援することで、医師の診断が効率的に行えます。
具体的には、CTやMRIの画像をAIが解析し、病変が疑われる箇所を指摘、医師がそれを確認して診断を行います。人間では見落とす可能性がある小さな病変を見つけることも、可能かもしれません。

4.介護ロボットによる負担減

介護士の人手不足も深刻化しているなか、今後の高齢化への対策として、「介護ロボット」の活用が期待されています。介護ロボットは、移動から入浴まで介護業務をサポートする「介護支援」、歩行や食事をサポートし、自立を促す「自立支援」、会話などからメンタルケアを行ったり、異変の際に職員に知らせたりする「コミュニケーション」の役割に分かれます。

介護ロボットは、少子高齢化により人手不足に陥っている介護業界の負担を軽減してくれるでしょう。超高齢化社会に突き進む日本にとっても、期待が高まる存在です。

5.IoMT

IoMTとは、Internet of Medical Thingsの略で、IoT(モノのインターネット)を医療分野において扱う表現です。さまざまな医療機器やデバイスを、インターネット経由でつなぎ、リアルタイムの医療・健康に関する情報収集や解析を可能にする技術、概念のことを言います。

取得されたデータはクラウド管理され蓄積されます。このIoMTにより蓄積されたデータは、新たな治療法や医学的知見を得ることにも役立ち、さらに健康維持や病気の予防にも活用できるでしょう。

6.ウェアラブルデバイスを活用した健康管理サービス

身体に付けるデバイスである「ウェアラブルデバイス」は医療機器として認定された『Apple Watch』が代表的です。このデバイスによって、心拍数などリアルタイムで身体の状態がわかり、病気を抱えている患者の治療に、役立つ機能も持ち合わせています。

また、ウェアラブルデバイスから取得した情報を、クラウド経由でPCやスマホなどに記録できるアプリサービスも盛んになっています。体温や心拍数など最新の状態を確認できるため、身体の変化を察知し、病気の早期発見につながるかもしれません。

日本のヘルステック産業における課題

日本のヘルステック産業は、発展の一途を辿っているものの、諸外国と比べて遅れていると言わざるを得ません。世界的流行になった新型コロナウイルスにおける感染防止の観点から、医療機関への通院を控える状況が続いても、日本では医療のリモート化への動きが遅れていました。

元々日本は、医療分野におけるデジタル化が遅れています。この背景には、諸外国に比べて健康保険が充実・機能していることや、法的な制約が異なること、第三者に健康情報が渡ってしまうことへの抵抗感などがあります。

今後、日本におけるヘルステック産業を発展させるには、データの安全性やプライバシーの信頼度を高めることも重要なポイントです。誰もが安心してヘルステックを活用できるよう、国や自治体、医療機関、企業などが連係し、新たな仕組みを創出していくことが望まれます。

ヘルステックが切り開く未来とは

今後、超高齢化社会を迎える日本人の平均寿命と健康寿命の差は、約10年と言われており、これからも拡大していくと予測されています。できるだけ健康でいる期間を延ばすためにも、病気は「治療する」から「予防する」時代へと変化していかなければなりません。

また、日本における医師の数も、38か国あるODEC加盟国の中で最低水準です。医師が少ない中で、いつでも、どんな場所にいても、医療を受けられる体制を構築する必要があります。

さらに介護分野でも多くの課題があり、少子高齢化の波を受けて要介護者の増加と介護士不足も深刻です。少ない介護士で要介護者ひとりひとりに合ったケアが求められているのです。

これらの医療にかかわる、深刻な問題を解決するために、「ヘルステック」が重要な役割を担うでしょう。今後の超高齢化社会における医療の在り方を、ヘルステックとともに考えることが求められます。

まとめ

ヘルステックは、医療分野と最新テクノロジーを組み合わせたシステムやサービスです。近年、デジタル技術の進歩により、AIやクラウド、モバイル、ウェアラブルデバイスやIoT機器など、医療に役立てることが可能になりました。ヘルステックにより、健康寿命の延伸や医療格差の是正、医療費の削減、医師不足の緩和などに期待が高まっています。

ヘルステック業界の市場規模は年々拡大しており、背景には国による「働き方改革」や「ストレスチェック義務化」による、企業の社員に向けた意識変化があります。また、個人でも健康意識の高まりから、健康測定器具や健康管理アプリの活用が増え、今後もさらなる市場規模の拡大が見込まれます。

ビジネスモデルの実例として、「電子版お薬手帳」や「遠隔診療サービス」、「AIによる画像解析」、「介護ロボット」、「ウェアラブルデバイスによる健康管理サービス」があります。平均寿命と健康寿命の差の拡大や、医師不足、要介護者の増加など、日本のこれからの諸問題に、ヘルステックは重要な役割を担うでしょう。

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