ポスト2025に向けた24年度同時改定、医療・介護の連携強化・推進が鮮明に

ポスト2025に向けた24年度同時改定、医療・介護の連携強化・推進が鮮明に

2024年度診療報酬改定は、介護報酬との同時改定ということもあり、医療と介護の連携強化を意識した項目が多く盛り込まれています。ここでは厚労省が考える“ポスト2025”に向けた医療・介護提供体制の動向について解説し、この流れを受けた今改定における医療と介護の連携強化に関する具体的な項目について解説します。

ポスト2025に向けた医療・介護政策の動向

我が国の医療・介護の提供体制は、国民皆保険を基盤とした医療保険制度と、2000年に創設され社会に定着した介護保険制度の下で、着実に整備されてきました。一方、高齢化の進展に伴い疾病構造が変化し、これに併せて必要な医療・介護ニーズが変化するなど、医療・介護の提供体制を取り巻く環境は大きく変化しています。

例えば、65歳以上の人口は2040年を超えるまで、75歳以上の人口は2050年を超えるまで増加が見込まれ、要介護認定を受ける率の高い85歳以上の人口は2035年まで増加が見込まれるなど、今後も医療と介護双方のニーズを有する高齢者が大幅に増加することが予想され、▽介護保険サービス利用者が入院する、▽医療機関に入院する高齢者が退院後に介護保険サービスを利用する、▽地域や施設で生活を送る高齢者が医療と介護双方のサービスを利用する-といったケースは今後益々増加していくと推定されます。一方、都道府県や2次医療圏単位でみれば人口動態は異なっているため、地域単位で完結する医療・介護提供体制を構築していく必要があります。

また、高齢者人口が増加する一方、既に減少に転じている生産年齢人口は、2025年以減少が加速することが見込まれ、医療・介護提供体制の確保のために必要な質の高い医療・介護人材の確保や、サービスの質を確保しつつ従事者の負担軽減が図られた医療・介護の現場を実現することも求められます。

こうした動向を踏まえ、医療・介護計画の上位指針である総合確保方針※について、”ポスト2025”を見据えた内容に見直しが行われ、2023年に改正されました。
※「地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律」に基づき、厚労省の医療介護総合確保促進会議で議論、取りまとめが行われるもの。正式名称は「地域における医療及び介護を総合的に確保するための基本的な方針」

総合確保方針の意義 ・基本的方向性の見直し

図1 総合確保方針の意義 ・基本的方向性の見直し
令和5年2月16日開催 「第19回医療介護総合確保促進会議」資料を元に作成

図の基本的方向性の中で目につくのは、これまでの「効率的で質の高い医療提供体制の構築と地域包括ケアシステムの構築」という文言を、「地域完結型」の医療・介護提供体制の構築と言い換えたことです。地域包括ケアシステムの考え方は、必要な医療を提供できるよう診療所や病院間で連携や機能分化を行い、介護施設とも連携を取りながら、住み慣れた地域でこれまでの日常生活に近い環境で暮らし続けたいという住民の思いを実現させることですが、人口動態や医療・介護提供体制は地域により異なるため、地域毎の特性を踏まえた医療・介護提供体制を作っていく必要があり、「団塊の世代」が全て75歳以上となる2025年、その後の生産年齢人口の減少の加速等を見据え、患者・利用者など国民の視点に立った医療・介護の提供体制を構築し、国民一人一人の自立と尊厳を支えるケアを将来にわたって持続的に実現していくことを目的に、総合確保方針の基本的な方向性の見直しが行われました。

こうした経緯を踏まえ、2024年度の同時報酬改定に向け、昨年3月から5月にかけて、中央社会保険医療協議会(中医協)と社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会が、診療報酬、介護報酬の具体的な検討に入る前に、医療と介護等の連携・調整をより一層進めるという目的で、▽地域包括ケアのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携、▽高齢者施設・障害者施設等における医療、▽認知症、▽リハビリテーション・口腔・栄養、▽人生の最終段階における医療・介護、▽訪問看護、▽薬剤管理-などの課題について意見交換会を行い、中医協・社保審で意見交換を踏まえた議論が行われた結果、同時改定では医療・介護の連携の評価についての項目が多く盛り込まれることになりました。

次項から2024年度診療報酬・介護報酬それぞれの改定にみる医療・介護の連携についてトピックスを取り上げます。

24年度診療報酬改定:医療・介護の連携トピックス

まず、介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院)の入所者と定期的にカンファレンスを行うなど、平時からの連携体制を構築している医療機関の医師が診察を行い、入院した場合の評価が新設されました。後述しますが、介護保険施設が協力医療機関と連携することを評価する介護報酬での加算も新設されています。
【新設】協力対象施設入所者入院加算 200点または600点

高齢者施設等と医療機関の連携強化

図2 高齢者施設等と医療機関の連携強化
令和6年1月22日 「第239回社会保障審議会 介護給付分科会」資料

医療と介護の両方を必要とする状態の患者が可能な限り施設での生活を継続するために、医療保険で給付できる医療サービス範囲の見直しも行われます。具体的には▽介護老人保健施設に入所している末期の悪性腫瘍患者に対し、放射線治療の医学管理や緩和ケアの医学管理に関する費用、▽介護老人保健施設に入所している患者に対し、高度な薬学的管理を必要とする薬剤を処方した場合の費用、▽介護老人保健施設や介護医療院に入所している重症心不全患者に対する植込型補助人工心臓(非拍動流型)に係る指導管理の費用▽介護老人保健施設及び介護医療院に入所している患者に対し、高度な薬学的管理を必要とする薬剤に係る処方箋を発行した場合の調剤等にかかる費用-が医療保険で算定することが可能となります。 
在宅医療においてICTを用いた医療情報連携の推進についても評価の充実が図られます。在宅での療養を行っている患者に対し、医師・歯科医師が計画的な医学管理を行う際、薬剤師、看護師、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、介護支援専門(ケアマネージャー)など患者の医療・ケアに携わる関係職種が、 ICT を用いて記録した診療情報等を活用した場合、新たな評価が新設されました。
【新設】在宅医療情報連携加算 100点/月

24年度介護報酬改定:医療・介護の連携トピックス

まず、介護保険施設で対応可能な医療の範囲を超えた場合、協力医療機関との連携の下でより適切な対応を行う体制を確保する観点から、①入所者の病状が急変した場合等において、医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保している、②診療の求めがあった場合において、診療を行う体制を常時確保している、③入所者の病状の急変が生じた場合等において、当該施設の医師又は協力医療機関その他の医療機関の医師が診療を行い、入院を要すると認められた入所者の入院を原則として受け入れる体制を確保している-といった要件を満たす協力医療機関(③は病院に限る)を定めることが義務付けられました。協力医療機関と1年に1回以上、入所者の病状の急変が生じた場合等の対応の確認を行うなど平時からの連携を進めることで、施設での急変時の相談対応や入院調整、早期退院といった流れがスムースに進むことを期待しています。また、平時からの連携を強化するため、入所者の現病歴等の情報共有を行う会議を定期的に開催することを評価する加算が新設されています
【新設】協力医療機関連携加算 最大100単位/月

入院患者が円滑に在宅に移行するための介護職種との連携の推進や、評価の拡充も行われています。まず、入院中にリハビリテーションを受けていた患者に対し、退院後介護保険でのリハビリテーションの計画を作成する際、入院中に医療機関が作成したリハビリテーション実施計画書を入手し、内容を把握することが義務付けられました。また、リハビリテーション事業所の理学療法士などが、医療機関の退院前カンファレンスに参加し、共同指導を行うことを評価する加算が新設されています。
【新設】退院時共同指導加算 600単位/回

これ以外にも、▽円滑な在宅移行を推進するため、訪問看護師が要介護者の退院・退所当日に初回訪問することを評価する加算の新設(初回加算Ⅰ 350単位/月)、▽専門性の高い看護師が訪問看護の実施に関する計画的な管理をおこなうことを評価する加算の新設(専門管理加算250単位/月)、▽介護保険の利用者が入院した日の翌日または翌々日に、医療機関の職員に利用者に関する必要な情報を提供する加算の見直し(入院時情報連携加算 200単位/月または100単位/月を250単位/月または200単位/月に引上げ)、▽介護保険の利用者が、医師の診察を受ける際に介護支援専門員が同席し、利用者の心身の状況や生活環境などの情報提供を行う通院時情報連携加算の対象に歯科医師を追加する見直し-など、医療機関と介護事業所・施設間の連携強化を診療報酬で後押しすることが示されました。

まとめ

トピックで述べた通り、医療介護の連携推進を目的に、介護支援専門員に対する報酬が初めて算定できることになり、その点で今回の同時改定は画期的と言われています。

介護を必要とする方ができる限り自立した生活を送ることができるように、適切なサービスを受けるためのサポートを行う介護支援専門員の役割は益々重要になってきます。在宅患者にICTを活用して情報連携を行うことで加算が新設されたことから、情報の中心となる介護支援専門員を中心にICTを活用して多職種での診療情報や薬剤情報の共有が進むことが予想され、製薬企業においてもICTツールを介した情報提供が重要な手段の一つとして考慮する必要があります。

厚労省は、ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの像を描いており、医療と介護が一体となって地域住民が最後まで自宅で過ごせる体制の構築を目指そうとしており、これまで以上に医療と介護がシンクロする報酬制度に移行していくことが考えられます。

地域をベースに、医師だけでなく多職種に対し、必要な医薬品情報をどのように届けるのかが重要になっていくと思われ、製薬企業はこれまで以上に地域・エリア単位での情報提供が重要になると考えられます。

ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進
図3 ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進
令和5年2月16日開催 「第19回医療介護総合確保促進会議」資料

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執筆者紹介

塚前 昌利
塚前 昌利
株式会社ベルシステム24 
第1事業本部 営業企画部 マネージャー
外資系製薬企業にて、MR、プロダクトマーケティング、メディカルアフェアーズを経験後、医療系出版会社などを経て、2013年より現社にてマーケティング業務を担当。
業界経験を活かし、アウトソーシングの立場で、製薬企業の市販後サービスを中心に様々なニーズを踏まえた、最適なソリューションの提案、コンサルティング等の業務に携わる。診療報酬、医療制度、医薬品適正使用、情報提供のあり方等をテーマに業界誌に多数執筆、企業等での外部セミナー講師も担当。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会・認定登録コンサルタント
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