データヘルス計画とは? 概要や目的をわかりやすく解説
- 2023.06.12
- 健康維持・増進 , 医師監修
- ウェルネスの空 編集部
データヘルス計画とは国が推進する健康事業であり、超高齢化社会に備え、国民の健康寿命を延ばし、日本経済の活力向上を目指す取り組みです。この記事では、従業員の健康改善や企業の生産性向上に向けた施策を検討中の方に向けて、データヘルス計画の概要や目的を解説しています。ぜひ参考にしてください。
データヘルス計画の概要とは?
データヘルス計画とは、レセプト(医療情報)、健診結果などのデータ分析に基づいて、PDCAサイクルで効果的かつ効率的に保健事業へ取り組むという、事業計画のことです。計画策定にあたっては、健康・医療情報を電子化し、分析して、被保険者などの健康的課題を明らかにすることとされています。この計画の対象となるのは、全ての健康保険組合と市区町村国保です。
PDCAサイクルは、Plan(計画の立案)、Do(計画の実行)、Check(行動の評価)、Act(改善して次サイクルへつなぐ)の頭文字をとったもので、企業の業務改善方法としてもよく使われます。
データヘルス計画では、P→D→C→Aの順に回すことで、効果的に保健事業を進められます。具体的にそれぞれで行うのは、Pがデータ分析に基づいた事業立案、Dが事業実施、Cがデータ分析に基づいた効果測定と評価、Aが次に向けての目標値と事業内容の見直しです。
こうしたデータヘルス計画は、2013(平成25)年6月に閣議決定された「日本再興戦略」で提示されました。「日本再興戦略」とは、「民間の力を引き出す」「全員参加で、世界で勝てる人材育成」「フロンティアの創出」といった内容の柱が掲げられた、経済成長への戦略です。
(参照元:厚生労働省「データヘルス計画の概要」)
(参照元:「日本再興戦略」)
データヘルス計画が求められる背景
データヘルス計画が求められる背景には、主に3つあります。
まず、社会環境の変化です。日本では65歳以上の高齢者の割合が増加を続け、今後超高齢化社会を迎えます。また、少子高齢化や職場の定年延長によって、労働者の高齢化も進んでいきます。国民の健康寿命を延ばすことが、「日本再興戦略」の重要な施策でもあり、この計画導入で生活習慣病などのリスクを低減し、医療費を抑え、労働生産性を高めるのが狙いです。
次に、レセプトや健診データの、電子的な標準化の進展が挙げられます。まず、2004(平成16)年に策定された「保健事業指針」では、効率的で効果的な保健事業のための施策として、保険者による健康に関する情報の蓄積と活用が示されました。2008(平成20)年にこれを発展させた特定健診制度がスタートし、以降は特定健診を全国どこでも同一の基本項目で受けられ、その結果も同一の様式で電子的に保管されるようになりました。これにより、データを分析することで健康状況がわかったり、健康保険組合ごとの傾向がつかめたりといった、健康課題の把握や対策立案が可能となっています。
さらに、2008(平成20)年4月施行の「高齢者の医療の確保に関する法律」において、保険者に対する特定健診と保健指導の義務化がなされたことも、データヘルス計画が求められる背景のひとつです。
データヘルス計画の目的
データヘルス計画の目的は、PDCAサイクルに沿った保健事業運営を行い、データ活用によって科学的にアプローチすることで、事業の質や実効性を高めることです。効率的に加入者全体の健康の増進を図ることで、医療費増大の抑制や生産性の向上につなげ、日本の経済活力の向上も目指します。
また、「日本再興戦略」では、「国民の健康寿命の延伸」を施策の重要な柱に挙げています。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことです。健康寿命の延伸によって、平均寿命と健康寿命の差を小さくしていくこともまた、データヘルス計画の目的とされています。
データヘルス計画の期間は?
データヘルス計画の期間は第1期~第3期まで決められています。第1期実施は2015(平成27)年度~2017(平成29)年度、第2期は2018(平成30)年度~2023(令和5)年度、第3期は2024(令和6)年度~2029(令和11)年度です。なお、現在実施中の第2期のポイントは3つあります。
- 課題に合わせた目標設定と評価結果の可視化
- コラボヘルスを情報共有型から課題解決型へと転換
- 他事業へのデータヘルス事業の水平展開
(参照元:厚生労働省「データヘルス計画作成の手引き(改訂版)」)
データヘルス計画がスタートするまでの経緯は、次の通りです。
まず、データヘルス計画が開始される前、2008(平成20)年度に特定健康診査等が導入され、健診結果などのデータの電子的な管理が推進されました。2013(平成25)年には「日本再興戦略」で、全ての保険者に対し、レセプト、健診データ等の分析に基づいた加入者の健康保持増進のための事業計画として、データヘルス計画の作成、公表、事業実施、評価などの取り組みが求められました。
さらに、その方針に沿って2014(平成26)年に保健事業の実施指針が改正され、また第1期データヘルス計画の計画策定も行われています。2015(平成27)年度には第1期データヘルス計画がスタートし、各保険者はPDCAサイクルを実行に移し、保健事業を行ってきた、という流れです。
データヘルス計画に関連する政策
ここでは政府によるデータヘルス計画関連政策の「特定健康診査等実施計画」「データヘルス改革」についてまとめています。
特定健康診査等実施計画
特定健康診査等実施計画とは、保健事業の核となる特定健診、特定保健指導の実施法を具体的に定めた計画です。2008(平成20)年に、高齢者の医療確保に関する法律に基づいて定められました。
健康事業の効率的で効果的な実施に向けて、この計画とデータヘルス計画を連携させ、一体化して進めるのが望ましいとされています。
(参照元:厚生労働省「特定健康診査等実施計画作成の手引き(第3版)」)
データヘルス改革
データヘルス改革とは、超高齢化社会問題の解決に向け、健康・医療・介護に関して、国としての姿勢を検討し、国民・患者にとって本当に必要なサービスを見極めるという改革方針です。
データヘルス改革が目指す未来は、まず国民・患者目線での情報通信技術の活用により、健康・医療・介護のデータ収集と整理を行い、ビッグデータを活用した適切な医療提供を進めます。そのうえで、個人情報の保護、徹底したセキュリティ対策、費用対効果の視点を踏まえ、国民・患者目線でのAI・データベース・健康情報などの利活用のための取り組みの加速、インフラ整備を行うというものです。
2017(平成29)年に「データヘルス改革推進本部」の第1回が開催され、その後数回にわたって会合が開かれています。
(参照元:厚生労働省「データヘルス改革について」)
データヘルス計画とコラボヘルスの実施で健康経営を推進
コラボヘルスは、事業者の「健康経営®」と保険者の「データヘルス」を連携、協力させて推進し、保健事業を実施する活動です。なお、健康経営とは、事業者が経営的視点で従業員の健康管理を捉え、健康保持とその増進への取り組みを戦略的に展開するものです。
「健康経営」と「データヘルス」の連携がスムーズに進めば、相乗効果が期待できます。保険者側には、保健事業への長年の取り組みによって積み上げられた、健康作りや病気の予防のノウハウ、医療と健康のデータがあります。これにより集団としての健康課題の分析が可能です。しかし、財政面で厳しい事情があり、保健事業の強化が難しくなっています。
この状況を打破するために、必ずしも十分とは言えなかった事業者と保険者の連携体制を見直し、役割分担することで効率化して円滑に進めることで、その解決も見えてきます。
(参照元:厚生労働省「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」)
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
まとめ
データヘルス計画とは、厚生労働省が推進する、国民の健康増進と日本経済の活力向上を目指した戦略です。その実行にあたってはさまざまな関連施策が行われています。コラボヘルスもそのひとつで、企業にとっても従業員の健康増進と経営の向上につながるため、意義のある取り組みと評価できます。
この記事の監修医師
甲斐沼 孟先生( TOTO関西支社健康管理室産業医)
データヘルス計画のなかでは、健康事業の延伸と医療費適正化を図るためにレセプトデータや健診情報等のデータの分析に基づく効率的かつ効果的な保健事業を実施していくことが重要です。
最初のSTEPとして現状を構造的に把握して、健康課題の優先順位づけを行い、その上で事業の選定や目標評価指標の設定を行ったのち、事業の実施をして事業評価や見直しを行うというPDCAサイクルを繰り返すことが必要です。
また、2015年に開始されたデータヘルス計画に関しては、2024年度の第3期開始に向けて2023年度には第2期の振り返りと第3期の計画策定が必要となります。
現状の課題と今後の対応策については、「計画策定・公表」、「事業メニュー」、「事業アプローチ」、「事業実施方法」、「評価指標」、「保険者間連携」の6つの分野において詳細な検討を進める必要があると認識されています。
ただし、いまだに情報が未確定な部分も多く、今後も厚生労働省からの発信を注視する必要があります。
この記事は、医療健康情報を含むコンテンツを専門医がオンライン上で確認する「メディコレWEB」の認証を受けています。
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