製薬企業の健康経営の取組み、具体例を紹介
- 2023.07.06
- 健康維持・増進
- ウェルネスの空 編集部
製薬企業は病気を治し人々の健康に貢献するという生命関連企業としてのミッションを背負っており、自社における健康増進の取組みにとどまらず、健康経営®施策の推進を通じた健康経営優良法人取得の取組み、さらには中小企業や自治体などの健康経営課題を支援するサービスに取り組む企業も出てきています。ここでは、製薬企業の健康経営優良法人の認定状況や、企業の取組み事例をご紹介します。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
健康経営優良法人とは
地域の健康課題に即した取組や日本健康会議が進める健康増進の取組をもとに、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰する健康経営優良法人認定制度、健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目的としています。制度には、大規模の企業等を対象とした「大規模法人部門」と、中小規模の企業等を対象とした「中小規模法人部門」の2つの部門があり、それぞれの部門における上位500の企業にはそれぞれ「ホワイト500」「ブライト500」の冠が付与されます。
「健康経営優良法人2019」までは、認定企業数が少なかったこともあり健康経営優良法人の大規模法人部門全体を「ホワイト500」と呼んでいましたが、「健康経営優良法人2020」からは認定企業のうち上位500法人のみの選出となりました。また、「健康経営優良法人2021」からは中小規模法人部門のうち上位500社を「ブライト500」として顕彰しています。
製薬企業の健康経営優良法人の認定状況
表は、大規模法人部門における、製薬企業(会社法上の業種である医薬品企業として分類、ここでは製薬企業と呼びます)の、2019年以降の健康経営優良法人認定企業数の推移をみたものです。ご覧の通り19年の24社から23年は39社と増加傾向が続いています。健康経営優良法人に選定される企業が急増しているため、全業種に占める製薬企業の割合は減少傾向にありますが、見方を変えれば早くから健康経営に取り組む企業が多い結果とも言えます。
表1 製薬企業の健康経営優良法人の取得状況(大規模法人のみ)
ここからは、いくつかの事例を取り上げます。
あすか製薬ホールディングス
製品発売100周年を迎えた甲状腺治療薬からテーマを取り上げ、不定愁訴の早期発見を目的として全従業員に「甲状腺機能検査」を実施、「性ホルモン」からテーマを得て「卵巣がん検査・前立腺がん検査」を実施するなど、企業の得意とする領域を活かし、社員自身の健康課題の早期発見を目的とした施策を実施しています。
また、女性が健康で豊かな人生を送るためのヒントを社会に発信していく「女性のための健康ラボ Mint+」を設立、幅広いライフステージを対象とした女性特有のつらい症状に寄り添い、女性のカラダや健康に関する正しい情報の一般に向けた発信や、不妊に関するオンラインイベントの開催、性教育に関する高校保健体育の副教材の提供など、さまざまな活動を展開しています。また、社内では「女性のための健康ラボ Mint+」が公開しているヘルシーレシピを社員食堂のメニューに取り入れ従業員に提供しています。
中核である「あすか製薬」は、健康経営優良法人ホワイト500に5年連続認定、「あすか製薬ホールディングス株式会社」も2年連続で認定されています。
参照元:https://www.aska-pharma-hd.co.jp/csr/sustainability/health.html
ロート製薬
2014年に日本初の「チーフヘルスオフィサー(CHO=健康経営責任者)」、2016年には人事総務部内に健康経営推進グループを設置、2018年には自社の健康経営の考え方を「健康経営宣言」として制定するなど、健康経営優良法人認定制度ができる以前から健康増進の取組みを進めています。
取組のポイントは、社員自らが健康のために自走していくことを目指し、自身の健康状態や身体について知り、実践し習慣化していくためのきっかけづくりに取り組むという点が挙げられます。一例として、ARUCO(アルコ)と呼ばれる“社内健康通貨”があります。社員の日々の歩数や早歩き時間、スポーツ実施や卒煙達成など健康的な生活習慣の実施状況に応じて、独自の社内通貨(健康コイン)を付与する仕組み。獲得したコインを健康にまつわるグッズとの交換や、社内起業家支援「明日ニハ」におけるARUCOクラウドファンディングに利用できます。
表2 健康施策の取組み
同社は2021年にロートグループ統合経営ビジョンを掲げ、既存のOTC医薬品領域だけでなく、食や再生医療分野への事業領域を広げいくことを宣言、2022年4月からは、健康経営をグループ会社や社員の家族にも広げられるよう、「ロートグループ健康保険組合」を設立するなど、グループ全体の一体感の醸成や、社員のウェルビーイングに焦点を当てた「新・働き方宣言」を社名のロート(610)にちなんで今年6月10日に健康宣言日「ロートの日」として発表するなど、ユニークな取り組みを実施しています。
参照元:https://www.rohto.co.jp/news/release/2023/0309_02/
協和キリン
2015年5月に経営トップによる健康宣言を発信し、早くから健康経営に取り組んでいます。従業員一人ひとりの健康づくり行動を促進する「動機付け」と、健康づくり行動を実践していくための「継続支援」の施策の両面からの推進、つまり、企業と健康保険組合の協働(コラボヘルス)による取組みが特徴と言えます。健康増進や疾病予防対策等のグループ共通施策や事業場独自施策も積極的に実施、健康保険組合は、毎年「健康白書」を発行して年代別の疾病傾向や生活習慣の実態等を紹介し、自社の健康課題の可視化と健康意識の醸成を図っています。
コロナ禍に発足した「Smileプロジェクト」という有志プロジェクトメンバーによるお昼休みの10分ラジヲや、健康に関するクイズのほか、従業員からの自由投稿など、社内SNSを活用した双方向コミュニケーション活動の推進や、「事業場対抗」や「年代別対抗」などでチームを編成、参加率や平均歩数に応じてすごろくを進めるウォーキングキャンペーンなど、ユニークな取り組みを進めています。ウォーキングキャンペーンは、「参加率」や「平均歩数」といった、従業員一人ひとりがわかりやすく取り組みやすい行動を目標にすることで、5年前まで10%台だった参加率が2022年秋には従業員の80%を超える約3,500人が参加、役員も率先して参加し、役員の平均歩数は約8,000歩と全体平均よりも高い結果となっています。
禁煙の取り組みでは、施策開始前の2017年に20%以上あった喫煙率が、2020年には目標水準と定めた「5%以下」を達成、労働生産性の観点からも、投資額に対して約60倍の効果が得られています。
表3 グループ共通施策例
企業のホームページにはこうした取り組みや結果が詳細に解説されており、これから健康経営に取り組む企業にとって非常に参考になる内容となっています。
協和キリンは健康経営優良法人ホワイト500に7年連続で認定、また、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組む健康経営を実施する上場企業の中から、1業種1社を基本として、特に優れた取り組みを実践している企業が選定される「健康経営銘柄」に2年連続で選定されています。
参照元:https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2023/20230308_01.htm
https://www.kyowakirin.co.jp/csr/human_resources/workplace_safety/index.html
富士薬品
医療用医薬品、配置薬、ドラッグストア、調剤薬局など様々な企業体からなり、研究開発職、店舗従業員、営業職といった、多様な働き方・働く場所・年代・性別の従業員が勤務していることから、グループのスローガン 「とどけ、元気。つづけ、元気。」を実現できる企業で在り続けるため、健康経営を含めたダイバーシティ&インクルージョンの推進に力を入れています。人々の健康をサポートする企業として、社員の健康を何よりも優先するという考えにもとづき、2019年4月に健康経営の取り組みを開始、▽多様な人財の理解促進・活躍支援、▽職場環境改善-などのダイバーシティ&インクルージョン推進に取り組み、2020年から健康経営優良法人に認定、22年・23年と2年連続でホワイト500に認定されています。
こうした従業員の健康経営に取り組んできたノウハウを活かし、社会全体の「健康」に寄与していくため、「配置薬」を契約している企業向けに、23年4月から無料の健康経営支援サービスを開始しています。
健康経営で求められる従業員のヘルスリテラシー向上に役立つさまざまな情報、具体的には、感染症対策や花粉症対策、転倒防止、女性の健康支援など、健康に関するテーマ別に動画セミナーとしてオンライン配信する研修プログラムを提供するとしています。
参照元: https://www.fujiyakuhin.co.jp/diversity-healthmanagement/
https://www.fujiyakuhin.co.jp/news/13581/
大塚製薬
トータルヘルスケア企業として、健康の大切さを映し出した健康宣言を行い、社員のヘルスリテラシー向上のための健康セミナーや運動プログラムの提供など多様な活動を行っており、健康経営優良法人ホワイト500に7年連続で認定されています。また、各地の自治体・協会けんぽ支部・商工会議所等と健康経営や健康づくりに関する連携協定や覚書を締結するなど、自社で有する様々な健康情報や資産を外部のステークホルダーに向けて提供してきました。
その実績を活かし、22年7月から法人向け健康経営支援サービス、「健康経営つながるサポート」の本格運用を開始しています。従業員数30名程度以上の中小企業に対し、▽健康経営優良法人認定の取得サポートおよび同社製品による健康支援、▽全国の健康づくりの専門家の紹介、▽健康経営支援ツールの紹介-といったサービスを健康経営エキスパートアドバイザーや健康経営アドバイザーの資格を有する社員が提供し、健康経営の実践と健康経営優良法人認定の取得を支援するというものです。大塚製薬は、47都道府県と連携協定を結び、自治体の協力のもと中小企業で働く人へ向けた健康推進活動を行っており、これまで培ってきた実績やノウハウを活かした取組みといえます。
参照元:https://otsuka.kenko-shacho.com/
https://www.otsuka.co.jp/sustainability/employees-health/
まとめ
製薬企業は人の生命や健康につながる医薬品を扱っているだけに、自社の得意とする領域に関するノウハウを活用した社内の健康施策への展開に留まらず、ビジネスとして培ってきたノウハウを他社の健康支援サービスに展開するなど、力の入った取組みが目立ちます。また、医薬品提供にとどまらず健康増進や予知・予防といったペイシェントジャーニーを俯瞰したサービスに乗り出す企業も出現、治療から”健康”にフォーカスしたビジネスへの取組みが進んでいます。自社の健康経営の推進はこうした新規ビジネスへの取組みのベースとなることから、各社の今後の展開が注目されます。
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