ウェアラブルで取り組む、職場のウェルビーイング(well-being)向上

ウェルビーイングという概念が広く認知されてきています。
従業員のウェルビーイングを高め、業績や価値向上を目指す企業が増えている一方で、それらを正しく測定し、評価できているケースはどのぐらいあるでしょう。
本記事では、職場のウェルビーイング向上を目的としたウェアラブルデバイス活用の可能性について、弊社の事例も交えて解説します。

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ウェルビーイングとは?

"より良い暮らしのためのより良い政策の構築に取り組む国際機関" である経済協力開発機構(OECD)によると、ウェルビーイングは「社会的・精神的・身体的に健全な状態」であると定義されており[1] 、このような定義から、日本ではしばしば「幸福感」についての概念として扱われることが多いようです。

ウェルビーイングは大きく分けて2種類存在することが、アメリカの心理学者のEd Dienerによって提唱されています[2]。

<Hedonia(快楽追求)>
1つ目はHedoniaと言われ、「今日美味しいものを食べた」や「上司に怒られた」などの瞬間的な喜怒哀楽で変化するようなウェルビーイングを意味します。

<Eudaimonia(幸福追求)>
一方、Eudaimoniaは人生全体で「自分の人生の目的は達成されつつあるか?」や「自分の人間関係は良好な状態か?」などの長い時間をかけて変化するようなウェルビーイングとされます。こちらは日本語でいう「生きがい」に近い意味を持っていると言えるでしょう。

ウェアラブルで取り組む、職場のウェルビーイング(well-being)向上-1図1. 分別されるウェルビーイングの図解

要約すると、

  • 瞬間(短期)的な喜怒哀楽を表現するためのウェルビーイング
  • 長い期間を対象とした「生きがい」を表現するためのウェルビーイング

に分別されます。

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職場におけるウェルビーイング

ウェルビーイングは人の健康や幸福と大きく関連があります。このことから、職場に焦点を当てた研究も行われています。

例えば、「従業員の生産性」とウェルビーイングの高さについて言及した論文があります[3]。49業種、230社の独立した企業における従業員約188万人のウェルビーイングと従業員の生産性や離職率などを調査した結果、ウェルビーイングの高さと生産性の間には正の相関があり、離職率とは負の相関があることが明らかになりました。ウェルビーイングが高い職場ほど、イキイキと仕事もできるのでしょう。

さらに、上司との関係で職場の雰囲気や仕事のやりづらさ、ストレスとの関係を調査した研究もあります[4]。ここでは、上司とのコミュニケーションのとりやすさは従業員のウェルビーイング向上に効果的であり、対照的に、とりづらさは離職率やウェルビーイングの低下につながると報告されています。さらに、ウェルビーイングは職場内で「伝染する」ことも分かりました。

ウェルビーイングを計測するデジタルバイオマーカーの可能性

ウェルビーイングをより良い状態にするためには、それ自体を計測することが重要です。
従来とられてきた「主観的」に捉える手法と、ウェアラブルデバイスで取得できるデータから「客観的」に把握する手法、それぞれについてご紹介します。

<主観的ウェルビーイング>
ウェルビーイングの評価方法は、「質問紙」によるものがこれまで一般的でした。つまり、自分で自分のウェルビーイングを評価するものです。例えば、「PANAS(The Positive and Negative Affect Schedule)[5]」や「SWLS(Satisfaction With Life Scale)[6]」といった質問紙がよく知られています。

主観的ウェルビーイングのメリットは、回答行為そのものが自分を顧みる機会になることです。一方で、わざと良い方向に答えてしまうなど、バイアスがかかりやすいというデメリットがあります。

<客観的ウェルビーイング>
昨今、ウェアラブルデバイスを用いた「客観的なウェルビーイング」の計測方法の研究が盛んになってきています。
質問紙で取得できる主観的なウェルビーイングの高低と、ウェアラブルデバイス等で取得できる運動・睡眠・心拍などの身体データの関連性を見る試みです。
多くの研究において、日常の運動量や睡眠の状態と、幸福度・抑うつ・不安・ストレスなどの度合いとの関連性が発見されています。

ウェアラブルデバイスなどを活用して、病気の有無や治療による変化を客観的に可視化する指標のことを「デジタルバイオマーカー(dMB)」と呼びます。
デジタル技術の発達により、負担なく長期間の身体データが日常的に取得できることで、心身の不調や病気の状態を詳細に把握できる可能性があります。

今後さらに研究や解析が進み、不調をとらえるデジタルバイオマーカーが開発されれば、ウェアラブルデバイスで取得できる身体データから人の感情や調子を定量化する未来が来るでしょう。

弊社の取り組み事例「ウェアラブルデバイスを使ったストレス状態の見える化」

弊社では、ウェアラブルデバイスであるFitbitから取得したデータを分析し、ストレスや睡眠に関するスコアを可視化する独自の取り組みを行っております。
本人同意を得た15名の従業員を対象に、ウェアラブルデバイスを配布、ランキング形式で比較を行い毎週ランキングの変動を見ながら自分の健康意識の向上を図る検証を行いました。
取り組みでは、脈拍データを用いて副交感神経の優位度を算出し、「ストレスフリー度」として本人にわかりやすくフィードバックしています。

ウェアラブルで取り組む、職場のウェルビーイング(well-being)向上-2図2. ストレスフリー度のランキングレポート

ウェルビーイングに関連するような客観的レポートを見ることにより、行動変容が起こった従業員もいました。
全参加者15名のうち、最初は10位と下位にいたAさんのストレスフリー度が、1ヶ月後には2位まで上がっています。

ウェアラブルで取り組む、職場のウェルビーイング(well-being)向上-3図3. Aさんの期間中のランキング推移

Aさん本人に確認したところ、朝行っていたランニングを夕方に変更したり、就寝や起床の時間を揃えて睡眠時間のバラつきを無くすことを意識するなど、日常生活の改善を心掛けるようになったそうです。

また、取り組みを行ったチーム内では、睡眠や運動などに関して意見がかわされ、お互いにアドバイスをするなどコミュニケーションにおける健康に関しての話題も増え、健康意識の高まりが確認できました。

ウェルビーイングを客観的に把握することにより、自主的に健康改善に取り組み始めた好事例です。

まとめ

職場におけるウェルビーイング(well-being)は、従業員の生産性や離職率等と関連があり、ますます関心が高まっています。
これまでは主観に頼らざるを得なかったその計測方法も、不調をとらえるデジタルバイオマーカーが開発されれば、身体データから感情や調子を客観的に把握できるようになるでしょう。

また事例でご紹介した通り、客観的に見えることで、自然と改善行動も起きやすくなります。
ウェルビーイングのさらなる向上や健康増進を目的とした、企業におけるウェアラブルデバイスの活用が広がることを期待しています。

執筆者紹介

湊 和修
湊 和修
株式会社テックドクター 代表取締役 
慶應義塾大学 医学部 精神・神経科学教室研究員
サイバーエージェント、位置情報広告事業AIRTRACK事業責任者。ディスカバリー・ジャパン、アソシエイトディレクターなどを経て、慶應義塾大学医学部研究員、研究プロジェクトリーダーとして勤務。共著論文『Subjective Well-being and the LF/HF ratio among deskworkers』
2019年に株式会社テックドクター創業。
米国TWITTER社イノベーションチャレンジ最優秀賞受賞。
URL: https://www.technology-doctor.com/
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