中小企業も注目、自治体が取り組む健康経営、様々な顕彰制度の事例を紹介
- 2023.01.27
- 健康維持・増進
- ウェルネスの空 編集部
従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する健康経営®、地方自治体においても「健康経営優良法人」の認定に向けた支援や、認定を受けた事業者に対するインセンティブ等の支援策が創設されています。本記事では自治体における健康経営や健康づくりに関する顕彰制度の状況や、具体的な支援策について解説します。また企業からみた自治体の健康経営顕彰制度のメリット・課題についてもご紹介します。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
自治体が健康経営に関心を寄せるメリットは?
企業が健康経営を推進することは、自治体住民の健康増進の意識に繋がり、医療費削減が期待できます。企業社員は国民健康保険の対象外ですが、退職後は住民票のある自治体の保険に移ることになるため、企業の健康経営の取り組みは自治体にとっても大きな関心事であると言えます。また、2015年の国民健康保険法改正により、保険者(都道府県・市町村)における医療費適正化計画に向けた取り組みを評価する指標を設定し、達成状況に応じて交付金を支給する国民健康保険の保険者努力支援制度が創設、2020年度からは、予防・健康づくりの取り組みに対しても事業費として交付を行う制度へと拡充されています。つまり、自治体が健康づくりに取り組むことで、地域が活性化、地場産業が新興することで税金が増え、さらに地域住民が健康づくりに取り組むことで医療費の削減や、保険者努力支援制度の事業費を受け取ることでさらに健康づくりに予算を投じることができるという好循環が期待できます。
自治体における健康経営等顕彰制度
経産省が2018年に全国の47都道府県、市及び特別区(792の市と23の特別区)、計862の自治体を対象に健康経営又は健康づくりに関する顕彰制度の実施状況を調査したところ、71の自治体で75の顕彰制度を実施していることが分かりました。年度別にみると2017年度に創設された顕彰制度は13に過ぎませんでしたが、2018年は24の顕彰制度が創設されており、直近2年間で75の顕彰制度のうち、約半数の37制度が新設されています。また、24の顕彰制度のうち、16が健康経営を検証するものであり、近年の地方自治体による健康経営の普及促進への取り組み度合いが窺える結果と言えます。
また、顕彰制度を開始した理由としては、「地域住民の健康増進のため」が54制度と最も多く、次いで「中小企業等の生産性向上・活力増進のため」(29制度)、「国民健康保険等、医療費負担の将来的な低減のため」(24制度)、「中小企業等の人材確保に寄与するため」(18制度)の順でした。
調査では、顕彰制度の実施・運営にあたり、多くの自治体が外部の関係機関と連携している実態も浮かび上がりました。特に、保険者(協会けんぽ、健康保険組合連合会 等)や商工会議所との連携が多数を占めており、他にも医師会や保険会社、金融機関等、多様な主体との連携が行われています。具体的には、協会けんぽと連携している顕彰制度は51、商工会議所などと連携している制度は36、健康保険組合連合会都道府県支部と連携している顕彰制度は26などとなっています。
(参照元:経済産業省 平成30年度「健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営普及推進等事業)調査報告書)
ここからは、自治体における顕彰制度のいくつか具体的な事例を取り上げます。
青森県「青森県健康経営認定制度」
青森県の働き盛り世代の健康づくりを推進するため、従業員の健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践する健康経営に取り組む県内事業所を、「青森県健康経営事業所」として認定しています。▽事業主自身が健康診断を受診しており、健康宣言を行っている、▽産業医、衛生管理者等により健康管理の体制が構築されており、認定の申請年度又はその前年度に開催された青森県医師会健やか力推進センターの健康づくり担当者の養成研修等を修了した者が健康づくり担当者として設置している、▽常勤従業員に対し、厚労省が推奨する全てのがん検診の受診を勧奨しており、かつ、当該がん検診について勤務時間内に受診できる体制となっている、▽受動喫煙防止対策を実施しており、青森県から空気クリーン施設の認証を受けている、▽40歳以上の常勤従業員の健康診断の受診結果を把握している、▽労働保険料及び社会保険料を完納している-といった6つの要件等を満たした企業に対し、2年間の認定証が交付、県入札参加資格申請時の加点や、「青森県健康経営事業所」として県が積極的にPRを行う、金融機関の借入金優遇制度を利用できる等のメリットが期待できます。県のホームページでは建設業(251事業所)を筆頭に、学術研究、専門・技術サービス業(19事業所)、卸売業・小売業(18事業所)など359の事業所が認定を受けています(2022年12月時点)。
(参照元:青森県健康経営認定制度ホームページ)
茨城県「いばらき健康経営推進事業所認定制度 」
茨城県では、働く世代のメタボリックシンドローム該当者の割合が全国平均と比較して高いという健康課題を抱えており、従業員の健康に配慮した取り組みを実施している企業を「いばらき健康経営推進事業所」として認定し、働く世代の健康増進を図ることを目的に創設されています。茨城県は「県民が日本一幸せな県」の実現に向けて、県民の健康寿命日本一を目指す「いばらき健康寿命日本一プロジェクト」に取り組んでおり、その一環としてこの認定制度が生まれたという経緯もあります。
認定基準は健康経営優良法人の認定基準に沿っており、▽経営理念(健康経営についての経営者の自覚)、▽健康経営を推進する為の組織体制の整備、▽制度・施策の実行、▽評価・改善、▽法令遵守・リスクマネジメントーの項目を満たすことが求められています。また、認定されることで、▽ハローワークの求人票に本制度の認定企業であることを記載することが出来る、▽県が主催する就職面接会などへの参加企業を選定する際に優遇される、▽県内金融機関が用意している、制度認定事業者向けの金利優遇プランを利用することが出来る、▽茨城県のホームページを通じて、認定事業の優れた取り組みを事例紹介として公開することで、従業員への配慮取り組みを実践している優良企業としての印象を広くPRできる-といったメリットが期待されています。2022年10月時点で236事業者が認定を受けています。
(参照元:いばらき健康経営推進事業所認定制度ホームページ)
静岡県「ふじのくに健康づくり推進事業所宣言」
健康寿命の更なる延伸を目指し、個人の健康づくりや事業所の「健康経営」の取組を後押しするため、企業や事業所が、従業員の健康管理や維持・増進のための具体的な取組目標を宣言し、その取組を県が支援する制度で、被用者保険及び国民健康保険組合の事業所並びにその他県が認めた事業所が対象です。協会けんぽ静岡支部に加盟している企業・事業所は、同支部が実施している「ふじのくに健康宣言事業所」として認定を受けることで、「ふじのくに健康づくり推進事業所」として認定を受けることができます。また、協会けんぽ加盟事業所以外の企業・事業所は、①職場の健康状態をチェックする、②申込書を静岡県へ提出する、④宣言を記載した宣言書を掲げた写真を撮影し、静岡県へ提出する、▽宣言した内容を中心に、それぞれの事業所で健康づくりに取り組む、⑤毎年、取組内容を振り返る-の5つのステップに沿って、申込書の提出、健康づくりの取組を進めていきます。制度に取り組むことで、静岡県から▽静岡県のホームページや各種イベントでの事業所名、宣言内容等の周知、▽事業所の健康づくりの取組に関する相談・支援(ふじのくに健康づくりアドバイザーの派遣)、▽健康づくり活動に関する知事褒賞の推薦案内、▽静岡県主催のイベント等の情報提供-といった支援を受けることができます。また、制度の特徴として、取り組み年数に応じて、ホワイト事業所(1・2年目)、ブロンズ事業所、ブロンズ事業所一覧(3・4年目)、シルバー事業所(5・6年目)、ゴールド事業所(7年目以降)と取り組み年数により認定区分がグレードアップ、継続的な取り組みを後押しする仕組みとなっています。2022年10月末時点で256の事業所がゴールドの認定を受けています。
(参照元:ふじのくに健康づくり推進事業所宣言ホームページ)
企業からみた自治体の健康経営顕彰制度のメリット・課題
自治体が顕彰制度を実施することで、どのようなメリットがあるでしょうか。先の経産省の調査によれば、「事業者の健康意識が高まった」との回答が最も多く(58制度)、次いで「事業者のPRに活かされている」(42制度)、「自治体と事業者との接点が増えた」(35制度)、「地域住民の健康増進に繋がっている」(26制度)-の順でした。一方、制度運営の課題としては、「宣言・認定・表彰を受けた企業等へのメリット・インセンティブが不足している」との回答が最も多く(51制度)、「申請数の伸び悩み」(33制度)、「制度運営に関する人員の不足」・「保険者、医師会、商工団体等、地域の関係団体の巻き込みに苦労している」(どちらも18制度)-の順となっています。
特に、顕彰制度においては金融機関が提供する金利優遇などのインセンティブが設けられるケースも多いですが、低金利の経済状況の中で、支援策の数が2018年3月時点の83から、2019年3月時点は59と減少しており、健康経営以外の金利優遇との差別化が難しい状況になっていることが考えられ、企業のメリットとして受け止められにくいことが推察できます。
また、都道府県と市・特別区で顕彰制度が類似しており、企業から見た場合インセンティブや支援策の違いが分からないといった指摘もあり、一部の都道府県や市では顕彰制度の統合を検討する動きもあるようです。
一方、インセンティブ・支援策の中で、公共調達加点評価や、自治体による融資等での優遇に関する支援策の数はいずれも2018年から2019年にかけて増加しており、ビジネス上の観点から企業が顕彰制度に取り組む意義は大きいものと考えられます。
まとめ
経産省が2017年に実施した調査によれば、健康経営に取り組んでいる中小企業は約2割に過ぎず、現状取組んでいないという回答が約7割を占めています。
一方、現状取組んでいないが、今後取り組みたいという意向を持つ企業は5割に上っており、自治体が健康経営顕彰制度を設けることは、事業所単位で健康経営に取り組む中小企業を後押しすることになります。また、中小企業が健康経営を知った情報源は「テレビや新聞等のニュース」が圧倒的に多く、医療保険者や商工会議所、自治体からの情報は少ないといった結果となっており、自治体での様々な顕彰制度の内容や成果を分かりやすく発信していくことで、中小企業が健康経営に取り組むきっかけ作りになる可能性が考えられます。
(参照元:経済産業省 平成 29 年度健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営普及推進・環境整備等事業)調査報告書「中小企業における健康経営に関する認知度調査」)
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