経産省の政策に見る次世代のヘルスケア産業とは

経産省が推進している「ヘルスケア産業」は、昨今注目度が高まっています。ヘルスケア産業への参入を考えている企業も多いのではないでしょうか。

その一方で、ヘルスケア産業について正しい知識がある人は多くないと思います。ヘルスケア産業に参入するなら基礎知識はもちろん、問題点や今後の展望についても理解することが大切です。

そこで本記事では、ヘルスケア産業の基礎知識や問題点、次世代のヘルスケアについてお伝えします。

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ヘルスケア産業とは?

ヘルスケア産業とは、健康の維持・増進につながる商品やサービスを提供する産業の総称です。医療や介護といったサービスをはじめ、健康器具の製造・販売、高齢者住宅の提供など、関連する分野は多岐にわたります。

ヘルスケア産業の注目度は年々高まっており、今後さらに市場規模が拡大すると予測されています。市場拡大の背景にあるのは、日本における人口構造の変化です。2007年に「超高齢社会」を迎えた日本の高齢者人口比率は上昇の一途をたどっており、医療費・介護費の増大も深刻となっています。

増加した医療費・介護費を負担するのは、現役で働いている世代です。今後は労働人口の減少も深刻化すると見られており、現役世代の負担はさらに大きくなると予測されています。こうした状況を打破するために経産省が推進しているのが、ヘルスケア産業です。

ヘルスケア産業によって、高齢者をはじめとする国民が健康に生活できる年齢が延びれば、医療費・介護費の削減につながります。さらに、新たな産業の創出により経済の活性化も期待できます。ヘルスケア産業は、日本の将来を握っている重要な産業といえるでしょう。

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ヘルスケア産業の問題点

経産省が推進していることもあって、ヘルスケア産業への参入を検討している企業は多いでしょう。しかし、企業がヘルスケア産業を成功させるうえで、主に二つの問題点が存在します。

問題点の一つ目は、人材確保の難しさです。ヘルスケア産業で働くためには、健康づくりに関する知見が必要不可欠です。さらに他のビジネスと同様に、経営に関する知見も求められます。よって、ヘルスケア産業を成功に導くためには、健康面・経営面の知見を兼ね備えた人材を確保する必要があります。

しかし、すべての条件を満たしている人材が企業にいることは稀でしょう。社内でヘルスケア産業に適した人材を育成する場合には、多くの手間やコストがかかります。また、それぞれの専門家を雇い入れる場合は採用コストがかかるうえ、両者の連携も課題です。

問題点の二つ目は、利益拡大の難しさです。ヘルスケア産業では、健康意識の高い人が主な客層となります。そして、健康意識の高い人の多くは、病気や怪我を抱えている人です。一方で、健康面の不安を抱えていない多くの日本国民は、依然として健康意識が高いとはいえません。

そのため、ヘルスケア産業では健康意識の高い限られたターゲット層を他社と奪い合うことになりやすいです。新規参入が増えているヘルスケア産業の市場で優位に立つことは、簡単ではありません。利益拡大するためには、商品やサービスの品質向上はもちろん、健康意識が低い人へのアプローチも求められます。

経産省が目指す次世代ヘルスケア

ヘルスケア産業への参入を考える企業は多いものの、成功できる確率は高いとはいえません。しかし、医療費・介護費増大の問題などを解決するためには、ヘルスケア産業の活性化が重要な課題です。そこで経産省が打ち出したのが、「次世代ヘルスケア」です。

次世代ヘルスケアは、これからの「人生100年時代」に国民が安心して暮らせるように、「健康」という基盤を固めることが目的です。次世代ヘルスケアの大きな特徴は、「病気・介護の予防」に重きを置いている点です。健康上の大きな問題が顕在化する前に対策することで、医療費や介護費の削減が期待できます。

また、2020年以降に拡大した新型コロナウイルス感染症により、医療・介護の需要が急速に高まっています。こうした時代の変化に対応することも、次世代ヘルスケアの重要なテーマです。

次世代ヘルスケア産業の主な取り組み

経産省が全国的に推進している次世代ヘルスケアの主な取り組みは、次の3つです。

  • 1.健康経営・健康投資
  • 2. デジタル技術・データの活用
  • 3.日本の医療技術の国際展開

1. 健康経営・健康投資

経産省は、健康経営・健康投資を推進しています。健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点でとらえ、戦略的に実践することです。健康投資とは、健康経営における具体的な取り組みを指します。

従業員の健康を維持・増進することは、企業の将来的な利益拡大、ひいては日本の発展につながるのです。経産省は健康経営を普及させるために、次の取り組みを実施しています。

実施している取り組みの一つ目は、優良法人の見える化です。経産省は、健康経営を効果的・積極的に実践している優良法人を認定・表彰しています。経産省と東京証券取引所は、2018年に「健康経営銘柄2018」として26社が選定・公表されました。優良法人が社会的な評価を得られることは、企業のモチベーション向上につながります。また、これから健康経営を取り入れる企業にとってのモデルケースにもなるでしょう。

実施している取り組みの二つ目は、「健康アドバイザー」の育成です。経産省は、日本企業へ健康経営を推進するために健康経営アドバイザーを創設・整備しました。健康経営アドバイザーとは、ヘルスケア産業に欠かせない健康面・経営面の知見を兼ね備えた人材のことです。

具体的には、経営の専門家・健康の専門家を集めて研修を実施して、それぞれに足りない部分を補うことで、健康経営アドバイザーを育成します。育成した健康経営アドバイザーは、派遣先の中小企業で健康経営を推進する役割を担っているのが特徴です。

2. デジタル技術・データの活用

次世代ヘルスケアの実現にあたって経産省が重要視しているのが、デジタル技術・データの活用です。

デジタル技術を活用することで、企業の生産性向上・業務効率化につながります。分かりやすいのは、ICT(情報通信技術)などの活用によるオンライン医療の推進です。また経産省は、ロボットやAI、ゲノム解析の研究開発も推進しています。

データ活用は商品・サービスの品質向上だけでなく、医療・介護の需要拡大への対応にもつながるでしょう。経産省は、高齢者の健康データを収集・分析するデータベース構築などにも取り組んでいます。

3. 日本の医療技術の国際展開

経産省は、日本の優れた医療技術を国際展開する取り組みも行っています。具体的な取り組みは、医療機器・サービスの海外への提供(アウトバウンド)や、外国人患者の受け入れ(インバウンド)です。世界各国の社会問題を解決することはもちろん、世界で拡大するヘルスケア需要を取り込む狙いもあります。

アウトバウンドの取り組みは、単なる国際協力ではなくビジネスとしての収益獲得も目的です。そのために経産省は、医療機関や医療機器メーカーと連携して、海外現地での実証調査やデモンストレーションを実施しています。新しく事業化する際には外務省とも連携して、資金面の支援をします。

まとめ

今回はヘルスケア産業の基礎知識や問題点、次世代のヘルスケアについてお伝えしました。

ヘルスケア産業とは、健康の維持・増進につながる商品やサービスを提供する産業の総称です。少子高齢化にともなう医療費・介護費の増大といった社会課題に対応できる産業として注目されています。一方で、ヘルスケア産業を取り入れるには問題点もあり、企業の参入は簡単ではありません。

そこで経産省はヘルスケア産業を推進するために、「次世代ヘルスケア」を打ち出しました。次世代ヘルスケアでは、健康経営・健康投資やデジタル技術・データの活用、医療技術の国際展開などを推進しています。経産省が推進しているヘルスケア産業は、今後も発展していくでしょう。

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