注目度が高まるPHR、国やPHR事業者の最新の動向を解説

近年、健康や医療に関わる個人データ、PHR(Personal Health Record)が注目を集めており、国が進めるヘルスケアDXの肝にも位置付けられています。本記事ではPHRの定義や注目される理由、国の最近のPHRに関する取組みや最近の話題について取り上げ、解説します。

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PHRとは

PHRとはパーソナルヘルスレコード(Personal Health Record)の略で、個人の健康や身体の情報を記録した医療データを意味します。生涯型電子カルテといわれることもあり、生涯にわたる個々人の健康増進や生活習慣の改善を実現するための活用が進められています。米国診療情報管理学会は、PHRを「患者が保持する生涯に渡るカルテであり、患者の意思決定や医療の質向上に貢献するもので、医療機関だけでなく、個人からの情報を取得し管理するものである。また、PHRは、個人が主体的に用いるもので、アクセスの検討、管理も個人が⾏う」と定義しています。PHRには自己測定による血圧や血糖、体重、食事や運動などのデータに加え、病院・診療所や検査機関からの診察・検査データ、保険者保有の特定健診データ、薬局からの薬剤データなど、①患者⾃⾝で⼊⼒したデータ、②病院・診療所の電⼦カルテや調剤薬局の薬歴システムなどから取り込まれるデータ-の2種類があり、これらのデータを1ヵ所に集め、本人が自由にアクセスでき、それらの情報を用いて健康増進や生活改善につなげていこうとする試みが進められています。

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なぜPHRが注目されているのか

PHRがなぜ注目されるのか、医療現場、企業それぞれの立場からみてみましょう。

医療現場

医療現場において、患者の健診情報や過去の通院に関する情報、薬剤情報を把握することで、精度の高い診断や薬剤の重複投与を回避するなど適切な処方を行うことができます。また、PHRによりこうした患者情報を予め把握することで、医療現場の作業量の負担軽減につながり、結果的に質の高い医療サービスにつながることも考えられます。2021年10月からマイナンバーカードを健康保険証として利用できるようになりましたが、カードと健康保険証を一体化することで特定健診や薬剤情報の閲覧が可能になりました。医療機関がデータを共有することで医療現場の負担軽減や適切な医療提供につながるという点でメリットが期待されています。

企業

まず、企業にとってPHRを利活用することで、新製品や新サービスの創出につながることが期待されます。経産省は公的保険外のヘルスケア産業(健康保持・増進に働きかけるもの)のうちヘルスケア関連アプリの市場は2021年の248億円から2025年は600億円、2050年は925億円と3倍以上増加すると試算しています。
これはビジネスの側面からみたメリットですが、例えばアプリを活用して従業員の健康データを集めることで、生活習慣や職場での健康に関する課題を分析し、健康経営を推進するための材料として活用できるという点においてもPHRは注目されています。

国のPHRに関する取組み

国は、成長戦略(日本再興戦略、未来投資戦略、成⻑戦略)の中で、PHRについて少しずつ意味を変えながら施策の中で言及しています。
「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」、「未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革-」では、PHRを「本人が生涯にわたる医療等の情報を経年的に把握できる仕組み」と定義、データの円滑な流通や事業者の運営モデル等の構築のための研究を進め、個人の医療・健康等情報の統合的な活用を目指すことが明記されました。
「未来投資戦略2018─ 「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革─」では、個人にあった健康・医療・介護サービス提供の基盤となるデータ利活用の推進の一つにPHRの構築を挙げています。ここでは、PHRを「個人の健康状態や服薬履歴等を本人や家族が把握、日常生活改善や健康増進につなげるための仕組み」と定義、PHRの範囲と目的は、医療にとどまらず健康の維持や増進が含まれることが示されました。
政府の経済財政政策の基本方針を示した「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる骨太の方針では、2019年の「経済財政運営と改革の基本方針2019~『令和』新時代:『Society 5.0』への挑戦~」の中で、生まれてから学校、職場など生涯にわたる健診・検診情報の予防等への分析・活用を進めるため、マイナポータルを活用するPHR関係も含めて対応を整理し、健診・検診情報を2022年度を目途に、標準化された形でデジタル化し蓄積する方策をも含め2020年夏までに工程化することが示され、これが現在のマイナンバーカードを用いた健診情報や薬剤情報閲覧機能の導入に繋がっています。今年出された「経済財政運営と改革の基本方針2023  加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」においても、「マイナンバーカードによるオンライン資格確認の用途拡大や正確なデータ登録の取組を進め、(略)PHRとして本人が検査結果等を確認し、⾃らの健康づくりに活用できる仕組みを整備する」と明記しました。
少子高齢化、人口減少が進む日本において、国民の健康寿命の延伸は成長戦略の重要なテーマであり、国は、PHRをその実現のための施策の一つとして注目してきたという経緯がお分かりいただけるかと思います。

PHRに関する最近の話題

今後PHRがますます注目され、利活用が進むことが予想されますが、PHRは生活者の健康増進のために使われ、そのメリットを実感できてこそ真の価値を発揮することができます。そのためには
国が進める公的な医療・健康情報と民間事業者の情報を結び付けるための基本的な指針の整備や、
民間の活力を活かしながら、生活者自らのニーズに応じて安全安心に活用できる環境整備が必要となります。

注目度が高まるPHR、国やPHR事業者の最新の動向を解説
図 PHRの全体像

(引用元:令和5年2月9日開催 掲載残業症第3回新事業創出WG事務局説明資料

そのため、データの標準化や適切な情報の取り扱いに係るルール整備などの事業環境の整備を目的に、経産省の主導で2023年7月PHRサービス事業協会が設立されました。PHRサービス産業が国⺠の健康寿命の延伸や豊かで幸福な生活(Well-being)へ貢献するため、以下の実現を目指すとしています。

  1. PHRサービス産業の協調と競争を通じた持続的な発展と国際競争⼒の確⽴
  2. デジタル技術と科学的知⾒等を活かした利便性と信頼性の高い顧客価値の創出
  3. 幅広い業種によるPHRサービス産業への参画を通じたオープンイノベーションの促進

2023年8月29日時点で121事業者が会員となっており、製薬企業ではエーザイ、大塚製薬工場、沢井製薬、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、田辺三菱製薬、帝人ファーマ、東和薬品-等が名を連ねています。
また、2019年にはPHRの適正な普及推進のため、情報交換・情報発信を行い、社会の健康、安全のより一層の向上に寄与することを目的としたPHR普及推進協議会が設立されました。医療機関が患者向けに閲覧を許可するといった狭義のPHRではなく、個人の生活に紐付く医療・介護・健康等に関するデータ(Person Generated Data)を本人の判断のもとで利活用する仕組みを前提とし、

  1. PHRの普及、PHRデータの流通促進に関する課題、利用事例、効果等の調査・研究
  2. PHRの普及と利用促進に係るガイドライン及び認定制度等の整備
  3. PHRに関する啓発・広報活動
  4. PHRの普及推進に向けた政策提言活動

などを事業として掲げ、2023年2月にはPHRサービスを提供する民間事業者が踏まえるべきルールや規範を整理した「民間事業者のPHRサービスに関わるガイドライン(第2版)」を公表しています。2023年4月27日時点で賛助会員43社に加え、神奈川県、京都府、兵庫県など13の自治体が特別会員として参画しています。

まとめ

本来PHRは生活者が自由にアクセスでき、それらの情報を用いて健康増進や生活習慣の改善につなげていくものです。生活者本人が積極的に活用することで健康を実感し、充実したライフスタイルを送っていくための有益な“ツール”として利用していくことが求められます。

執筆者紹介

塚前 昌利
塚前 昌利
株式会社ベルシステム24 
第1事業本部 営業企画部 マネージャー
外資系製薬企業にて、MR、プロダクトマーケティング、メディカルアフェアーズを経験後、医療系出版会社などを経て、2013年より現社にてマーケティング業務を担当。
業界経験を活かし、アウトソーシングの立場で、製薬企業の市販後サービスを中心に様々なニーズを踏まえた、最適なソリューションの提案、コンサルティング等の業務に携わる。診療報酬、医療制度、医薬品適正使用、情報提供のあり方等をテーマに業界誌に多数執筆、企業等での外部セミナー講師も担当。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会・認定登録コンサルタント
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