デジタルヘルスとは? 医療業界で注目の技術をわかりやすく解説
- 2022.04.27
- 診断・治療
- ウェルネスの空 編集部
健康を維持しつつ、長生きがしたいという望みを叶える切り札として、注目を浴びているのがデジタルヘルスです。ICT技術の急速な発展が、健康や医療の分野をも大きく変えようとしています。
本記事では、デジタルヘルスとは何か、またデジタルヘルスで活用される技術について解説します。また、現在の市場規模やこれからの動向、さらに現在参入している企業や取り組みについても紹介します。
デジタルヘルスとは最新のデジタル技術を活用した医療のこと
デジタルヘルスとは、最新のデジタル技術を健康の維持・管理、そして医療に活用し、その効率や効果を高めることを指します。平均寿命が延びて、人生100年といわれる時代に、大きな社会問題となっているのは、年々膨れ上がる医療費です。少子高齢社会が避けられないなか、どのようにすれば、この先の医療費を抑えていけるのでしょうか。
その答えは、できる限り病気にかからないように努力することです。国民一人一人が、健康に気を配って病気を予防し、病気の早期発見を心がけ、病気にかかったときには極力悪化を食い止めるようにすれば、医療費を削減できる可能性が高まります。デジタルヘルスは、従来のアナログな方法よりも効果的で、上手に利用すれば、健康な暮らしを維持するのに大いに役に立ちます。
デジタルヘルスに利用される技術
それでは、デジタルヘルスに利用される技術としては、一体どのようなものがあるのでしょうか。以下、5つのテクノロジーについて説明します。
AI
1つ目はAI(人工知能)です。
AIを活用すれば、医療現場側も患者側も、ともに負担を減らすことができるでしょう。例えば、AIを使って患者への問診を自動化し、その結果に基づいて、病名を自動で推測することが可能です。また、超音波やMRIなどの検査で得られた画像について、AIが自動で画像解析を行って病名の候補を導き出し、医師が確定診断を行うのをサポートすることもできます。さらに、手術支援ロボットと組み合わせ、AIを手術のナビゲーターとして利用するなど、AI関連の研究開発は着実に進んでいます。
このように、AIの活用が普及することによって、医療現場での作業効率が上がるとともに、医療の質も向上することが期待されます。
チャットボット
2つ目はチャットボットです。チャットボットとは、人間の代わりにコンピューターが、音声やテキストで自動的に会話(チャット)を行うプログラムのことです。
チャットボットを活用すれば、患者からの問い合わせに加え、診察や予防接種などの受付を自動化でき、しかも24時間365日、いつでも対応できるようになります。さらに、チャットボットと患者のやり取りの内容を見て、必要があれば、人間が途中から引き継いで対応することもできます。また、事前に問診票を書いてもらったり、予約の番号札を配布したりできるので、患者は、医療機関での待ち時間を短縮できるといった恩恵を受けられます。
また、チャットボットが一部の業務を肩代わりすることで、医療従事者は本来時間を割くべき専門的な業務に集中でき、生産性や現場の効率が上がります。
5G技術
3つ目は5G(第5世代移動通信システム)技術です。
5G技術によって、これまでよりも格段に通信の質がよくなり、より大容量のデータをより高速に転送できるようになって、通信の遅延もほとんど感じられなくなりました。また、複数の医療機器やセンサー類を、同時にインターネットに接続して、リモートで使うことができるようにもなりました。これらの特徴を活かして、5G技術は、遠隔医療での実用化へ向けて実証実験が着々と進んでいます。
例えば、5G回線を利用すれば、僻地の診療所から4Kカメラで撮影した大容量の映像や検査画像を、時間をかけずに専門医がいる大学病院へと送信でき、リアルタイムで医療従事者同士が、スムーズにコミュニケーションをとれるでしょう。そうなれば、これまで僻地では困難だった病気の診断や治療ができるようになり、地域間の医療格差も少しずつ解消されていくに違いありません。
また、5G技術を活用すれば、病院間で必要な大容量データを伝送しながらリアルタイムで共有し、手術経験が豊富な医師が、遠方にいる執刀医に指示を出したり、手術ロボットを操作したりして直接手術を行うといったことも可能になります。
VR(仮想現実)
4つ目はVR(仮想現実)です。VRとは、専用のゴーグルを装着することによって、コンピューターが作り出した仮想の空間をあたかも現実の空間であるかのように認識させる技術を指します。360度の映像情報が、人間の動きに合わせて視野角の範囲で投影されるようになっており、見たいものをどの角度からでも見られるのが特徴です。VRイベントなどに参加してみると、VRがどのようなものかを実際に体験することができるでしょう。
VRには、医療分野での様々な活用例があります。例えば、患者の治療部位をモデリングした3D画像を事前に用意して手術時に投影すれば、スタッフ全員でそれを共有しながら、手術が行えます。また、手術室内に360度撮影できるようカメラを配置して、お手本となる専門医の手技を詳細に録画し、それを研修でスタッフ一人一人が体感できるようにすれば、効率的な実践教育を行うことが可能です。
他にも、医療を学ぶ学生向けには、人体の構造が3Dでわかりやすく学べたり、色覚に異常があるとどのように見えるかを体験して学べたりするといった、工夫をこらした医療教育系アプリがいろいろ登場しています。さらに、患者向けには、VRを使ってリハビリを行うなど、治療に直接役立つようなものも、続々と開発されています。
ビッグデータ解析技術
5つ目はビッグデータ解析技術です。医療に関わる膨大なデータを解析することで、医療に役立つ様々な知見が得られます。例えば、ある医薬品の承認後、日本中の医師が患者にその医薬品を投与して取得した、膨大な臨床データを解析することにより、治験段階では知られていなかった治療効果や副作用についての新事実が、明らかにされるかもしれません。
医療に関するビッグデータは、一人一人の人間が作り出しているものです。誰かが健康診断を受けたり、病気やけがで医療機関を受診したりする度に、問診の情報、体温や血圧の変化などバイタルサインの測定や血液検査の結果、CTやMRIなどの検査画像、処方薬の記録、処置や手術の記録といった、貴重なデータが蓄積されていきます。また、ヒトの遺伝情報をデータ化した医療ゲノムデータなども、ビッグデータに含まれます。
これらのデータは散在していて、公表されていないものも多いですが、厚生労働省が収集管理している診療情報データベース(DPCデータ)のように、審査を受けて通過すれば、提供を受けられるものもあります。
このような医療にかかわるあらゆるデータを集めて解析することで、各疾患に関する新たな知見が得られます。それにより、より多くの病気の予防や早期発見が可能になったり、新しい治療法の確立へつながったりして、質の高い医療サービスの提供が実現するでしょう。
注目を浴びている背景
デジタルヘルスが注目を浴びている背景には、デジタルヘルスを成り立たせるデジタル技術の進歩に加えて、新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックがあります。また、日本人の平均寿命が延びていく一方で、いかに健康寿命を延伸できるかが大きな課題になっていることも背景にあります。
新型コロナウイルス感染症関連では、スマートフォンを通じて、新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触した可能性を知らせてくれる、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)が有名でしょう。また、スマートウェアなどのウェアラブルデバイスで測定した体温や呼吸数などのバイタルデータから、感染の可能性を検知できるものも開発されています。
変わり種としては、ミラーの前にいるだけでバイタルデータやストレス状態が取得されて、おすすめの機能性表示食品を教えてくれるシステムがあります。さらに、トイレの便座にセンサーを組み入れて、トイレを使用した人の生体データを集め、健康状態を知らせるシステムの開発も進んでいます。
デジタルヘルスの市場規模は増加している
デジタルヘルス産業の市場規模は年々増加し、クラウドコンピューティングの採用や新型コロナウイルス感染症の流行によって、さらに市場が拡大しています。今後も右肩上がりの成長が見込まれており、リサーチステーション合同会社は、2021年に1747億ドルだったデジタルヘルス技術の世界市場規模が、2026年には3848億ドルになると予測し、Report Oceanは、2027年の世界市場規模を4801億ドルと予想しています。日本円で約50兆円、国家予算が約100兆円ですから、その大きさには驚くばかりです。
日本はヘルスケアのデジタル化が遅れている
日本は諸外国と比べて、ヘルスケアのデジタル化が遅れています。アクセンチュアが、2021年6月に世界14カ国で実施した調査によると、健康管理にデジタル技術を利用している割合は、世界の平均が60%であるの対し、日本は37%にとどまって14カ国中最下位という結果が得られました。
なお、日本におけるデジタルヘルスの利用経験は、子供の頃からインターネットやデジタル機器に慣れ親しんでいるミレニアル世代とそれ以外の世代の間に溝があり、大きな違いが見られます。ミレニアル世代のデジタルヘルスの利用経験が40%以上なのに対して、ミレニアル世代から外れる42歳以上では利用経験が一気に20%台まで下がりました。
日本におけるデジタルヘルスケアの課題
日本人の平均寿命と健康寿命の差は、約10歳と大きく開いており、平均的な日本人であれば、健康寿命を超えてからの約10年間を、何らかの病気と向き合いながら過ごすことになります。その間、病気で通院すれば、当然医療費がかかりますが、その医療費は国民全体の負担となり、その金額は増加の一途をたどっています。
日本におけるデジタルヘルスケアの進捗は、いかにデジタル技術を駆使して健康寿命を延ばし、病気で医療を必要とする期間を短縮して、医療費を削減するかという課題の解決に大きく寄与するでしょう。また、日本人は、自分の健康データを第三者が管理することに、大きな抵抗を感じているという調査結果があり、収集したデジタルデータの管理をどこにどのように任せるのかも、重要な課題となります。
デジタルヘルスケアに取り組む企業例
健康寿命を延ばすために有効な手段として、デジタルヘルスケアに期待が寄せられています。以下に、デジタルヘルスケアに取り組む企業の例を具体的に見ていきましょう。
医薬品にデジタルデバイスを組み込んだ「デジタルメディスン」
デジタルメディスンとは、医薬品にセンサーなどのデジタルデバイスを組み込んで一体化した技術のことで、薬の飲み忘れを防いだり、体内でバイタルデータを収集したりすることが期待されています。また、患者が同意すれば、家族や医療関係者などが、デジタルデバイスを用いて得られたデータを共有して、服薬の状況や効果などを把握することも可能となります。
なお、世界初のデジタルメディスンは、「エビリファイ マイサイト」で、大塚製薬の抗精神病薬と米プロテウス社のセンサーを一体化して製剤とし、それを検出するためのパッチ型シグナル検出器と専用アプリをセットにしたものです。
クラウド型電子カルテサービスを提供
日本で電子カルテが認められるようになったのは1999年のことであり、現在は、院内にサーバーを設置しなくても利用できるクラウド型電子カルテが主流となっています。現在、電子カルテメーカーは多数存在しますが、例えば、クリプラという企業もその中の一つです。
クリプラのクラウド型電子カルテは、複数の人がそれぞれのデバイスで、カルテを確認したり、編集したりできて便利です。また、インターネットが利用できれば、場所を問わずに使えるので、訪問診療で利用者宅にいるときも、院内と同等のサービスの提供を受けられます。
AIによる問診サービスを提供
Ubie(ユビー)社は、AIによる問診サービスを提供しており、日経BPなど複数のメディアに取り上げられています。ユビーAI問診は、AIに蓄積されたデータを分析し、各患者にパーソナライズされた質問を自動で生成できます。ユビーAI問診を活用すれば、一人当たりの問診時間を削減できるとともに、問診結果が電子カルテに反映されるので、事務作業が大幅に軽減されて、医師は診察により多くの時間をかけることができます。また、患者が医師に伝えるべき症状を漏らすことなく、確実に伝えることにも貢献します。
まとめ
新型コロナウイルス感染症の流行で、ヘルスケアのデジタル化が世界中で加速しましたが、今後もこの流れは続いていくものと考えられます。日本は諸外国と比べて、デジタルヘルスの活用で後れをとっていますが、国民全体の負担が重くなる一方の医療費を今後抑えるために、健康寿命を延ばす切り札として、デジタル技術による健康管理を推進していく必要があるでしょう。
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