医療・介護業界で話題の「2024年度惑星直列」とは? 知っておくべき改定の概要を解説

医療・介護業界で話題の「2024年度惑星直列」とは? 知っておくべき改定の概要を解説

国は、団塊世代800万人がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年までに、要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう「住まい・医療・介護・予防・生活支援」を一体的に提供できる仕組み“地域包括ケアシステム”の構築を目指しています。2024年は6年に1度の診療報酬・介護報酬同時改定の年に当たり、地域包括ケアシステムの構築に向けた最後の改定という点で、注目されています。ここからは、改定の項目や改定に向けた動きについてご紹介します。(本記事は2023年10月25日時点の情報をまとめております)

健康、医療・介護関連制度の見直しスケジュール図1 健康、医療・介護関連制度の見直しスケジュール

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診療報酬改定、基本方針の検討が始まる

診療報酬改定は、改定前年の秋頃より社会保障審議会(社保審)医療保険部会・医療部会で「基本方針」(「基本認識」と「基本的視点・具体的方向性」の2つで構成)についての議論を開始、12月初旬に決定されます。一方、診療報酬の財源は内閣が予算編成の過程で決定され、例年12月20日過ぎに「改定率」が公表され、これを受けて翌年1月中旬、中央社会保険医療協議会(中医協)に改定の「諮問」が行われ、2月初旬に厚生労働大臣に改定案を「答申」、3月初旬に告知・通知が発出、4月1日に施行されます。

診療報酬改定の流れ 図2 診療報酬改定の流れ
引用元:令和5年8月24日開催 「第166回社会保障審議会医療保険部会」公表資料

今年も8月24日の社保審・医療保険部会、翌25日の医療部会で次期診療報酬改定の基本方針の議論に向けたキックオフを開催、9月29日の両部会で、「基本認識」と「基本的視点・具体的方向性」の案が示されました。

診療報酬改定では毎回、喫緊の社会情勢や医療を取り巻く状況を踏まえた項目が取り上げられます。前回令和4年度診療報酬改定の基本認識では、4つの項目のトップに「新興感染症等にも対応できる医療提供体制の構築など医療を取り巻く課題への対応」が示され、コロナ関連の診療報酬の新設に繋がりました。9月29日に提示された基本認識では、トップに「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応」が示され、他業種と同様に医療業界における賃金引上げが大きなテーマとなりそうです。一方、診療報酬を1%引き上げるためには医療費ベースで4,800億円、国費ベースで1,200億円の財源が必要となることから、どこまで財源を充当できるのかが注目されます。

なお、診療報酬改定は例年4月1日に施行されていましたが、医療機関や薬局、システム改修業者は短期間で準備する必要があり、大きな負担が生じていたため、次回改定から6月1日に施行されることになりました。ただし、薬価は例年通り4月1日に改定されます。

製薬企業にとって、中医協での薬価の議論に注目しがちですが、社保審で重要とされた項目は中医協において診療報酬点数の引き上げや、新たな報酬の設定に繋がります。基本方針がベースになり具体的な点数に落とし込まれていくという流れを知っておく必要があります。また、次回から診療報酬改定は6月から実施されることも背景を含めて理解しておくべきでしょう。

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介護報酬改定、新サービスの創設へ

介護報酬改定の具体的な議論は、社保審・介護給付分科会で行われます。診療報酬と異なり3年に1回の改定のため、議論の回数も多く、次回改定に向けた具体的な方向性についての議論が進められています。改定スケジュールは、例年通り12月中に報酬に関する基本的な考え方の整理・とりまとめが行われ、翌年1月に改定案の諮問・答申が行われます。なお、介護報酬も診療報酬改定と同様に4月の施行を6月にずらしてはどうかという意見が出ており、現在協議中です。

10月11日に開催された介護給付分科会では、①地域包括ケアシステムの深化・推進、②自立支援・重度化防止、③良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり、④制度の安定性・持続可能性の確保-の4つが「基本的な視点」、つまり次回介護報酬改定に向けた重要な項目であるとの方向性が示されました。特に③については介護人材確保と処遇改善を求める意見が多くあがっています。一方、介護報酬の引き上げは保険財政への影響が懸念されることから、診療報酬改定と同様、介護提供体制の充実と保険財政のバランスをどのようにとっていくのかが重要な論点となりそうです。

令和6年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)図3 令和6年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)
引用元:令和5年10月11日開催 「第227回社会保障審議会介護給付分科会」公表資料

現在まで行われている議論の中で、次期改定で実現の可能性が高い項目を取り上げます。まず、訪問介護と通所介護を組み合わせた複合型サービスの創設です。利用者や家族のニーズに合ったサービスを提供できることや、訪問介護の人材不足の解消が期待できます。次に、介護予防支援事業所の拡大です。現在、介護予防支援サービスは地域包括支援センターが提供していますが、居宅介護支援事業所も介護予防支援サービスを提供できるようになることが決定されています。また、現在介護報酬の処遇改善として3種類の加算が設定されていますが、内容が複雑でわかりにくいことから、加算を一本化する方向で議論が進められています。

利用者目線で注目されるのは介護サービス事業所の財務諸表の公表が義務化されることです。これにより、利用者が介護事業所を選択する際の判断材料の一つとして利用することが可能になります。一方、利用者にとって気がかりなのは介護サービスの自己負担割合が2割となる対象者の拡大です。今年の夏までに結論を出す予定でしたが、「骨太の方針2023」で年末までに結論を得るとし、先送りとなっています。医療保険と同様に「給付と負担」のバランスをどのようにとっていくのか、議論が難航することが予想されます。

介護施設では、薬剤費は包括化されていますが、10月20日に開催された中医協において、出来高算定可能や薬剤範囲を拡大する仕組みが必要との意見が出されており、製薬企業にとって議論の動向が気になるところです。

医師の働き方改革、長時間労働の是正など医療機関の対応が進む

改正労働基準法が2019年4月から順次施行されていますが、医師の労働環境の見直しには時間を要することから、5年間の猶予が設けられていました。改革では、全ての勤務医の時間外労働時間の上限を一般労働者と同程度の年間960時間、救急医療など地域医療に不可欠な医療機関や、研修医など短期間に多くの症例を経験する必要がある医師は年間1,860時間に定めるなど、時間外労働の上限規制と健康確保措置が適用されることになります。

2024年4月の実施に向け半年を切っており、医療機関の準備はどこまで進んでいるのでしょうか。
10月12日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」では、1,860時間を超える時間外労働をする勤務医の数は、昨年7~8月の993人から、今年6~7月の調査では516人に減少、来年4月時点では83人の見込みとの結果が報告されました。とはいえ、1,860時間を超える勤務医が4月以降も依然として存在する可能性があることから、医療機関は引き続き、勤務環境改善の取組みを進める必要があります。

来年4月以降、勤務医が960時間を超える時間外労働を行う場合、「医療機関勤務環境評価センター」(以下、評価センター)が医療機関を評価し、都道府県の指定を受ける必要があります。評価センターは2022年10月から評価受審申込受付を開始しており、2023年10月9日時点の申込受付数は471件となっています。救急医療機関など長時間労働が生じやすい医療機関は既に申込受付を行っていることが予想されますが、4月までに指定を受けなければ、960時間を超える時間外労働を行うことは違法となり、夜間救急を閉じることで地域医療が崩壊する恐れがあり、受審申込件数の状況を注視する必要があります。

評価センター受審申込件数図4 評価センター受審申込件数
引用元:令和5年10月12日開催 「第18回医師の働き方改革の推進に関する検討会」公表資料

医師の働き方改革は当然ながら製薬企業の情報提供活動に大きく影響します。当然ながら時間外での製品説明会の実施や、残業時間でのアポイントは減少すると考えられます。また、960時間や1,860時間といった時間外労働はあくまでも暫定ルールであり、2035年度末までに時間外労働を960時間まで減少することが求められており、製薬企業においては医師の働き方改革を踏まえた情報提供体制の整備・対応が不可欠と言えます。

特定保健指導、アウトカム評価導入へ

特定健診・特定保健指導実施率の目標はこれまで通りですが、単一健保、共済組合(私学以外)の特定保健指導実施率の目標が引き上げられ、保険者のこれまで以上の取組みの推進が必要となります。

第4期特定健診・特定保健指導の目標図5 第4期特定健診・特定保健指導の目標
引用元:令和4年10月12日開催 「第3回第4期特定健診・特定保健指導の見直しに関する検討会」公表資料

なお、特定保健指導の具体的な変更点は、ウェルネスの空のブログ「特定保健指導が第4期から変わる? 2024年度からの変更点を解説」に詳細を解説しておりますので、ご参照ください。

まとめ

2025年は団塊世代が後期高齢者となる節目の年ですが、2025年以降は現役世代の人口が急減することから、▽政府は70歳までの就業機会の確保など、多様な就労・社会参加の確保、▽2040年までに健康寿命を75歳以上に伸ばす、▽ロボット・AI・ICTの活用やシニア人材の活用など医療・福祉サービス改革-を進めることで2040年を展望した社会保障・働き方改革を打ち出しています。次の大きな「惑星直列」は2040年になるかもしれません。

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