病院におけるDXの事例は? 最新の医療DXの取り組みを解説!

医療従事者の人材不足や医療の地域格差、新型コロナウイルスの感染拡大による影響などを受け、現在の医療業界はさまざまな課題を抱えています。本記事では、医療業界の変革を目的に推進されている医療DXについて詳しく解説します。

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病院におけるDXとは

病院におけるDX(Digital Transformation)とは、医療におけるDXのことです。医療DXは、保健、医療、介護の各分野におけるさまざまな段階でデジタル技術を取り入れ、医療のあり方や医療サービスを変革していくことを指します。

医療DXでは、疾病の発症予防から病院での受診、診療や治療、薬剤の処方、診断書作成、診療報酬請求、医療と介護の連携、地域医療の連携など、幅広い段階において生じる情報やデータを、保健・医療・介護関係者の業務やシステムで共通化・標準化していきます。
デジタル技術の活用によるシステム・データの共通化・標準化などが実現すると、ひとつの病院内だけでなく施設間で必要な情報のやり取りが可能になり、効率的かつ適切に医療サービスを提供できます。そのためには、ほかの病院や介護施設といった関連施設でもデータが活用できる仕組みを作るなど、社会全体の制度を変えていくことも必要です。

医療DXの重要性

日本では少子高齢化によって、労働力人口が不足しているにもかかわらず医療・介護が必要な高齢者が増加しています。特に医療現場における人材不足は深刻化しており、早急な対応が必要です。
電子カルテの連携などの医療DXによって医療現場で正確な医療データをスムーズに確認できるようになれば、効率的な医療の提供が実現します。また、医療DXは人材が不足する現場での情報伝達エラーから生じる医療ミスの対策としても有効です。今後も人材不足が進むことが予想される医療業界では、業務効率化やスタッフの負担削減につながる医療DXの推進が欠かせません。

しかし、医療業界ではほかの業種に比べてDX化が遅れているという現状があります。「DX白書2023」で業種別のDX取り組み状況を確認すると、医療、福祉業界の実施状況はわずか9.3%にとどまりました。

参照元:IPA独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」(47ページ)

医療DXが進まない背景には、IT人材不足や費用面の問題があります。
医療機関ではITを必要としない医療知識を持つスタッフが主に働いているため、IT系の知識を持つスタッフは多くありません。現場にDX化のために必要なIT人材が不足していることがDX化の妨げになっているため、医療DXには無理なくITを取り入れられる環境の整備も必要です。
また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、多くの医療機関で患者が減少しています。経営難によってDX化にかかる費用の準備が難しいケースも多く、DX化の足かせとなっていることから、経営状況の改善も課題です。

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病院におけるDXの事例

医療DXといっても、具体的に何をすればよいのかわからず、なかなか着手できないケースもあるはずです。医療DXの事例を知り、方向性や取り組み方を検討する際の参考にしてください。

オンライン診療

病院におけるDXの事例には、在宅でも診療が受けられるオンライン診療があります。新型コロナウイルスへの感染が懸念されるケースなど、通院が難しい患者でも無理なく診療を受けられるのがオンライン診療です。

オンライン診療ツールを導入した病院では、患者がスマートフォンにインストールしたアプリなどを使用してオンラインでの診療が受けられます。
診療を希望する患者は、アプリで診療の予約や決済などの実施が可能です。オンライン診療は、ビデオ通話や電子メール、チャットなどで医師に連絡を取って受けられます。処方された薬は郵送で送られるため、患者は家にいながらでも治療を受けることが可能です。
また、患者が体重や血圧などのデータを自宅で計測してアプリに登録し、医師との情報共有を可能にできる機能を持つツールを使用すると、さらに精度の高い診療を実現できます。

訪問診療スケジュール管理

訪問医療の現場では、効率的な訪問スケジュールを管理する難しさや、電話応対やカルテの記載といった作業負担の大きさなどが課題でした。
医療DXを導入した病院では、スケジュール管理ツールを利用し、訪問診療におけるスケジュール管理の効率化を実現しています。

ツールを利用した場合、患者と施設がお互いにスケジュールの空いている日を共有できるため、効率的に訪問診療のスケジュール管理が行えます。1日に何件も訪問するケースでは、訪問ルートの最適化も可能です。ほかの医師とのスケジュールを共有できる機能は、スケジュールがあわない際の割り振りにも役立ちます。

また、訪問診療を行っている病院では、毎日数十枚のカルテや診療内容報告書といった書類を持ち運ばなければなりません。管理ツールや電子カルテによって書類の電子化が実現すると、大量の書類を準備して持ち運ぶ手間や、紛失のリスクがなくなります。

AIを利用した問診

AIを利用した自動問診を導入した事例もあります。AI問診では、医療機関の受診前にAIが問診を行います。患者ごとに適した質問をAIが作成して回答を受け取るため、患者の症状の事前確認が可能です。スマートフォンやタブレットで事前に簡単な問診が行えるため、来院後の待ち時間の削減にもつながっています。
患者が回答した問診結果は診察前にカルテに反映され、AIが病名の推測も行います。カルテの記載ミス防止や作業の削減などにつながり、医師や看護師の問診に関係するさまざまな業務の効率化が実現します。

遠隔集中治療患者の管理

集中治療現場においては、ICU(集中治療室)の不足や人材不足、医療の質の差などの課題が生じています。集中治療現場の課題を解決した事例が、遠隔集中治療患者管理プログラムの利用です。
プログラムの利用によって、集中治療専門医が常駐する支援センターと病院がオンラインでつながります。専門医はモニターから患者の様子を確認し、現場の治療をサポートします。
遠隔地の病院と連携することで数多くの患者の臨床データを収集でき、患者の状態管理を行えるため、リスクの高い患者の早期発見も実現可能です。

医療DX令和ビジョン2030とは

2030年までに医療DXを推進させるために日本全体が取り組むべきこととして、自民党は2022年に「医療DX令和ビジョン2030」を提言しました。以下では、提言の内容について解説します。

全国医療情報プラットフォームの創設

全国医療情報プラットフォームとは、マイナポータルや各医療機関、自治体などのシステムを連携するプラットフォームのことです。「電子カルテ情報共有サービス(仮称)」、「オンライン資格確認等システム」を構築・拡充したシステムで、全国で活用できます。
医療機関や自治体などの各組織が保有する医療情報を登録し、必要に応じて情報を共有・交換できるプラットフォームの展開が見込まれています。医療情報には、医療保険者の保険者情報・検診情報、医療機関の請求情報・カルテ情報・処方箋情報、介護事業者等の利用者のADL・ケアプラン、自治体の予防接種情報や介護情報といった情報があります。

全国医療情報プラットフォームの創設により、たとえばマイナンバーカードで受診した患者の医療情報を、本人の同意に基づいて医師や薬剤師と共有できます。医療の質向上や、今後の感染症対策への備えなどが可能です。

電子カルテの標準化

たとえ各病院が電子カルテを導入・運用していたとしても、電子カルテの規格がバラバラでは、必要なデータの共有ができません。そのため、異なる医療機関の間でもデータの共有を可能にする、電子カルテの標準化も推進されています。
電子カルテの標準化は、国際標準規格「HL7FHIR」をもとに電子カルテの仕様を定めてから、国がその仕様を標準規格化する方法が検討されています。小規模の医療機関向けに、標準規格を満たしたクラウド型の電子カルテ開発も併せて実施予定です。
標準化された電子カルテから得られた大規模なデータは、新しい医薬品・医療技術などの研究・開発にも活用が可能です。

診療報酬の改定DX

現在の診療報酬関連のシステムでは、診療報酬の改定が生じるたびにシステム内の計算方法などの変更が必要になります。短期間でプログラムの変更作業を行うために生じていたさまざまな負担を軽減し、作業の効率化を実現する目的で行うのが診療報酬の改定DXです。

診療報酬の改定DXでは、各ベンダーがそれぞれ行っていたプログラム変更の期間短縮や、作業負担の軽減を実現するために、ベンダーが共通で使用できる共通算定モジュールが作成・提供されます。ベンダーはモジュールのアップデートだけでプログラム変更を完了できるため、診療報酬の改定にともなう負担が大幅に軽減されます。
また診療報酬の改定時期を後ろ倒しにすることで、作業負荷の平準化や人為的ミスの防止を図ります。

まとめ

医療DXでは、デジタル技術を取り入れて医療のあり方や医療サービスなどを変革します。医療DXを進めている病院では、診療や問診、集中治療患者の管理、訪問診療のスケジュール管理などにより、作業の効率化や待ち時間の削減といったさまざまな改善が実現しています。
今後は、「医療DX令和ビジョン2030」を実現するため、医療機関同士が情報を共有できる全国医療情報プラットフォームの創設や電子カルテの標準化など、医療システムに重点を置いたDXの推進が検討されています。


この記事の監修医師
竹内 想先生(名古屋大学医学部附属病院)

DXという言葉はかなり普及してきましたが、医療業界ではまだまだ浸透が進んでいません。
医療DXが進むことで医療現場の効率化やコスト削減が進み、2024年度から医師も対象となる働き方改革においてもプラスの役割を果たすことが期待されます。

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