労働衛生とは? 3管理と取り組み、コロナ禍における管理方法について解説

近年はコロナ禍の影響もあり、企業の労働衛生管理への意識が高まっています。この記事では労働衛生の基本となる3管理について解説するほか、3管理を実施するために必要な取り組みや、コロナ禍での労働衛生管理のあり方について紹介します。従業員の労働衛生管理に関心がある企業の方は、ぜひ参考にしてください。

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【基本】労働安全衛生法とは?

「労働安全衛生法」とは、快適な職場で労働者が健康かつ安全に働くことを目的に、必要な措置などを定めた法律です。
この法律が制定される以前は、労働安全衛生に対する法の整備が不十分で、労働環境を無視した大規模工事や生産拡大により、労働災害死亡者が相次いでいました。このような背景のもと、労働者を守るため昭和47年に労働安全衛生法が制定され、現在でも最新の情勢にあわせて改正が続けられています。

この法律でいう「労働衛生」とは、労働者が健康を維持できるよう、労働条件や作業環境を整える取り組みを指します。労働衛生は後述する3管理を基本的な対策としており、企業は法の定めに従って安全衛生管理体制を整え、3管理を誠実に実施する必要があります。

参照元:e-GOV「昭和四十七年法律第五十七号労働安全衛生法」

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労働衛生の3管理とは?

労働衛生における3管理とは、「作業環境管理」、「作業管理」、「健康管理」の3つです。さらに「総括管理」と「労働衛生教育」の2つを加えて、5管理とする場合もあります。

ここでは3管理について、それぞれの内容を詳しく解説します。

作業環境管理

作業環境管理とは、有害因子や作業を妨げる要因を取り除くか、対策を整えるなどし、労働者が健康で快適に働けるよう環境を整えることです。

有害因子の具体的な例としては、粉じんや放射線、劇薬や危険物、騒音などが挙げられます。また改善すべき環境要因に当たるのは、温度や湿度、照明、人口密度などです。

粉じんや放射線など人体に有害な影響を及ぼすものについては、作業環境の安全性を確認するため、定期的に「作業環境測定」を行う必要があります。測定で得た数値に応じて、企業は適切な措置を講じなければなりません。

また、オフィスのレイアウトや明るさ、空調設備などを変え、働きやすい職場環境を整えることも作業環境管理のひとつです。

作業管理

作業環境管理では作業のための空間を管理するのに対し、作業管理では作業そのものを対象としています。具体的には作業量や作業時間、作業方法などを適正化して従業員の負担を減らし、快適に作業が行える環境を整備することを指します。

また防護具の着用や安全設備の設置、マニュアルの整備などにより、従業員の心身にかかる負担を軽減することも作業管理に該当します。

作業管理を適切に行うには、定期的な作業現場の見回りや、マニュアルが遵守されているかのチェックが必要です。これらのチェックは事故や怪我の防止、残業時間の適正化にもつながります。

健康管理

健康管理とは、従業員一人ひとりが健康を維持しながら働けるよう、定期的な健康診断を実施することなどを指します。健康診断で問題のある所見が見付かった場合は、早期に健康指導や医療的措置、労務管理につなげることにより、異常所見の進行や悪化を防げる可能性があります。

作業で粉じんや鉛、有機溶剤といった特定の有害物質を取り扱う場合は、特殊健康診断の実施も必要です。
また最近はうつ病などで休職する人が増加しているため、企業は従業員のメンタルヘルスにも注意を払う必要があり、身体の健康に目を配るだけでなく、定期的なストレスチェックの導入などを検討すべきです。

労働衛生3管理の取り組み例

ここからは上記の3管理について、具体的に行うべき取り組みを紹介します。

作業環境管理に関する取り組み

労働安全衛生法第71条の3第1項の規定により定められた指針では、「空気環境」、「温熱条件」、「視環境」、「音環境」、「作業空間等」について、事業者が快適な職場環境形成のため措置を講じなければならないとしています。

参照元:厚生労働省|事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針

一般的なオフィスでは「空気」、「温度・湿度」、「明るさ」、「音」、「広さ」の5つについて、定時・定点観測を行い、課題が見付かれば改善を検討・実施します。

例としてはオフィスや休憩所での分煙、屋外作業での暑さ対策、季節や時間による照明の調整、作業場の拡張などによる適切な人口密度の確保などが挙げられます。

またテレワークを導入している企業では、社外でも社内と同様の配慮が行えるように取り組む必要があります。厚生労働省ではテレワーク環境向けのチェックリストを公開しているので、適宜活用しましょう。

参照元:厚生労働省|テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト【事業者用】

作業管理に関する取り組み

作業管理に関しては、作業そのものの効率化、体への負荷の軽減、作業時間の削減といった対策が考えられます。

効率化の具体的な方法としては、マニュアルの整備やデジタル化ツールの導入が効果的です。マニュアルやツールを導入したあとは、新たに定めた手順やルール、ツールの使い方を従業員が理解できるよう周知しましょう。また、手順が遵守されているかをはじめ、マニュアルやツールを導入して得られた効果を測定することで、さらなる効率化に向けて取り組めます。

体の負荷を軽減する取り組みとしては、パソコン作業など同じ姿勢が続く場合であれば、それを考慮した家具や設備の変更または導入が考えられます。また、重い荷物を持つ仕事の場合は助力装置の導入などにより、作業負担の軽減をはかります。

長時間労働が常態化すると集中力の欠如によりミスや事故、怪我のリスクが高まります。労働時間の適正化や適切な休憩時間の確保に努めましょう。

健康管理に関する取り組み

健康管理における主な取り組みは、従業員の疲労とストレスへの対策です。
具体的には、一時的に横になれるような設備を備えた休憩スペースの確保や、健康やストレスに関して従業員が気軽に利用できる相談窓口の設置などが挙げられます。従業員が正直に悩みを打ち明けるには、人事部などの社員が対応するより、社外の産業医や労働衛生機関の協力を得た方がよいでしょう。

また、従業員が運動できるスペースや緑地の設置も有効です。多量に汗をかいたり体が汚れたりする仕事ではシャワー室を設置するなど、従業員が清潔で快適に過ごせる環境を整えましょう。

コロナ禍における労働衛生の管理方法

コロナ禍を経て、企業ではさらなる労働衛生管理の徹底が求められるようになりました。以下に企業が留意すべき具体的なポイントを解説します。

日常的な健康管理の徹底

ウィズコロナの時代では、従業員が日常的に自身の健康管理に気を配れる環境づくりが大切です。出勤前の体温チェックや、風邪症状・味覚異常が起こった場合の報告を徹底し、体調不良の場合に休みやすい風土づくりと、急な欠勤に対応できる体制を整えておく必要があります。

あらかじめ、新型コロナウイルスをはじめとする感染症に罹患した際の対応を決めておきましょう。誰にどのように連絡するか、自宅待機は何日程度か、大量に欠勤者が出た場合にどうフォローするかなどを事前に従業員に周知しておけば、混乱を最小限に留められます。

さらに予防策として、残業時間の短縮や栄養管理、休憩時間の確保などを行い、体調を崩しにくいよう努めることも重要です。

柔軟な働き方の徹底

テレワーク導入をはじめとした柔軟な働き方も検討する必要があります。濃厚接触者になると自宅待機期間が発生しますが、テレワークを活用すれば自宅でも業務を進められます。

通勤ラッシュやオフィスでの密集による感染を回避するためには、時間差出勤や交代制の導入も有効です。さらに遠方の相手との会議や打ち合わせをビデオ会議に移行すれば、感染リスクを減らせるうえに出張費も削減できます。

オフィスの感染予防を徹底

オフィスでは、できるだけ感染リスクを減らすよう予防策を徹底します。従業員一人ひとりに対しては手洗いや消毒の徹底、密集時におけるマスク着用を張り紙などで周知させましょう。

また、デスクの間に適切なスペースを確保したり、こまめに換気したりすることも感染予防に役立ちます。

まとめ

従業員が健康で安全かつ快適に働くには、作業環境・作業・健康という3つの要素を適切に管理しなければなりません。また新型コロナウイルスをはじめとした感染症の予防のためにも、労働衛生管理の徹底は効果的です。

企業側がさまざまな改善に取り組むだけでなく、従業員一人ひとりが自身の健康に対する意識を高める必要もあります。従業員が健康管理における各種サポートを受けられるツールを導入することなども検討しましょう。


この記事の監修医師
竹内 想先生(名古屋大学医学部附属病院)

テレワークの浸透により、企業における産業保健活動も柔軟な対応が求められる。健康診断結果のデータなどのシステムの導入、産業医面接のオンライン実施、衛生委員会のリモート開催など、ウィズコロナ時代に適した産業保健体制を整える必要がある。ただしオンラインで全てを代替することは難しいため、情勢に応じた適切な対応が望ましい。

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