医師の働き方改革が求められる理由|課題や必要な取り組みを紹介

医師の働き方改革が求められる理由|課題や必要な取り組みを紹介

人材不足が深刻な医療業界では、医師の過重労働が長年の課題です。医療ミスの抑止はもちろん、医師自身の健康を守るためにも、早急な働き方改革が求められます。本記事では、医師の働き方改革が求められている背景をはじめ、その実現にあたっての課題や、改革に必要な取り組みについて解説します。

医師の働き方改革が求められる理由

医師の働き方改革が求められている大きな理由は、医療機関において医師の時間外労働が常態化していることが挙げられます。一般的には、1カ月の時間外労働が80時間、年間に換算して960時間を超えると、過労死ラインであるとされています。しかし、2022年の調査によると、病院の常勤勤務医の約20%はこのラインを超えている状況です。

参照元:資料2_医師の勤務実態について|厚生労働省(p.4)

そもそも医療機関では、実際の労働時間が正確に把握されていない場合も少なくありません。このように労働時間の管理が不十分な状況は、医師の長時間労働を助長し、医師自身の健康を脅かします。また、医師がコンディション不良の状態で医療行為を行うことは、医療の質や患者の安全に悪影響を与えることにもつながります。

2024年4月からは、医師の残業時間に上限を設ける制度も開始します。法令を遵守するためにも、医療機関は医師の働き方改革に取り組まなくてはなりません。

関連記事:【2024年施行】医師の働き方改革とは? わかりやすくポイントを解説 

医師の働き方改革の罰則

2024年4月に開始される時間外・休日労働の上限規制では、医師の労働時間に対して、一般企業で働く労働者と同様の制限が設けられます。時間外労働時間の上限は原則として年間960時間であり、やむをえない事情がある場合でも、年間1,860時間を超えることは認められません。

この規制を無視して医師を働かせた場合は、罰則として6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。また、罰則とは異なりますが、月60時間を超える法定時間外労働に対しては、50%以上の割増賃金を支払うことが必要です。そのため、こうした罰則を回避したり、高額の割増賃金の支払いを避けたりするためにも、働き方改革を進めることが求められます。

医師の働き方改革での課題

上記のように医師の働き方改革の必要性が高まる一方で、実現するのは無理だという声もあります。こうした意見が存在する理由としては、医療業界または医師の仕事には特有の課題があるためです。

人手不足である

制度や業務内容の変化、ハードな労働環境などの影響により、医療機関は長年にわたって人手不足に直面しています。特に救急医療・小児救急・周産期医療などは、医療訴訟のリスクが高いことから成り手が少なく、辞職や転科をする医師も多い状況です。加えて、高齢化の進行によって高齢患者が増え、さらに医療リソースを圧迫していくことも想定されます。こうした人手不足の状況で医師の働き方改革を推進しようとすれば、現状の医療体制が崩壊するのではないかと懸念されています。

勤務形態が複雑である

一般企業に比べて、医師の勤務実態は把握が難しいことも課題のひとつです。働き方改革を進めるには、その前提として、各医師の勤務状況を正確に把握する必要があります。しかし医師の勤務体系は、日勤・夜勤・宿直・三交代制など、非常に複雑で管理が困難です。医師の働き方改革は無理だという声の中には、医師がこうした独特の勤務形態を有していることを理由としているものもあります。

労働時間よりも患者優先になる

医師は人命を救う尊い職業ですが、それこそが医師の働き方改革を難しくしている面もあります。法令遵守という大義名分があったとしても、容態の悪い患者や急患を目の前にしたら、医師は自分よりも患者を優先せざるをえません。人手が足りなくても、休む時間が少なくても、人命を優先して無理を強いられる場面が多いことが、医師の負担を重くしています。

医師の働き方改革に必要な取り組み

医師の働き方改革を成功させるためには、労働環境の整備と労働時間の適正管理、そして医師業務の一部を移管するタスクシフティングの推進などが重要です。以下では、それぞれの取り組みで求められる内容について解説します。

労働環境を整える

まず重要なのは、激務に見合うだけの報酬体系を整えたり、仕事と私生活の両立を支援する勤務制度や福利厚生を充実させたりすることです。こうした対策には、新しい人材を呼び寄せるとともに、既存の人材の離職リスクを下げる効果があります。

具体的な対策としては、第一に残業手当や夜勤手当の増額などを通して、医師のモチベーションを高めることが挙げられます。また、時短勤務制度や柔軟なシフト制度の導入は、従来の働き方では仕事を継続するのが難しい医師を病院に留めるために有効です。その点では、院内保育園の設置なども役立ちます。さらには、休暇取得の促進や休憩所の充実などを通して、医師のリフレッシュを図るのも重要です。

労働時間を把握する

医師の働き方改革を進めるうえで、労働時間の正確な把握は欠かせません。そのためには、勤怠管理システムの導入が効果的です。勤怠管理システムを導入することで、医師の自己申告に依存した管理方法から脱却し、正確かつ客観的に労務管理ができるようになります。

また、変形労働時間制やシフト制の導入もおすすめです。変形労働時間制とは、1週間の法定労働時間(40時間)の範囲内で、仕事の忙しさに応じて労働時間の配分を行う方法です。これによって医師の労働時間を柔軟に調整し、時間外労働時間を減らせます。

タスクシフティングの導入を検討する

医師の業務負担を軽減するためには、タスクシフティング(タスクシェアリング)の導入も効果的です。タスクシフティングとは、必ずしも医師自身が担う必要のない業務に関しては、その仕事をほかの医療従事者に移管することを意味します。

タスクシフティングを成功させるには、業務の移管先となる医療従事者に対する十分な教育と研修が必要です。これによって、医師への業務集中を軽減するとともに、質の高い医療サービスを提供することが可能になります。

医師の働き方改革に使える補助金

勤怠管理システムの導入や人材確保、医師やその他の医療従事者も含めた職員への教育研修など、働き方改革を実行するうえでは多くのコストを必要とします。こうした経済的負担を軽減するためには、国が提供している助成金制度を活用することがおすすめです。

医師の働き方改革の場合は、「働き方改革推進支援助成金」のうち、病院などの医療機関を対象としている「適用猶予業種等対応コース」を利用できる可能性があります。この制度では、以下のような医師の働き方改革を促進する取り組みを行った病院に対して、助成金を支給しています。

  • 人材確保に向けた施策
  • 労務管理者またはその他の労働者に対する研修
  • 労務管理に役立つシステムや機器の導入
  • 業務効率化に資する機器の導入など

助成額は最大930万円です。詳細な情報に関しては、厚生労働省の公式サイトなどでご確認ください。

参照元:令和5年度「働き方改革推進支援助成金」|厚生労働省 (P2)

まとめ

医師自身の健康や生活を守るためにも、医療サービスの質を守るためにも、医師の働き方改革は非常に重要です。人手不足や複雑な労働形態など、医師の働き方改革には特有の難しさがあります。しかし、労働環境の整備や勤怠管理システムの導入、タスクシフティングの実施など、さまざまな取り組みを通して、少しずつでも改革を推し進めていきましょう。

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