医療DXの必要性|進まない理由や使える補助金について解説
- 2024.02.28
- 予知・予防
- ウェルネスの空 編集部
他業界と同様に、医療業界においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)は必要です。ここでは、業務の効率化を始めとする医療DXの必要性と、代表的な事例を示した上で、必要であるにもかかわらず進まない理由を考察します。また、医療機関に求められる対策のひとつとして、IT導入補助金をご紹介します。
医療DXの必要性
DX(デジタルトランスフォーメーション)が必要なのは、ビジネスの世界だけではありません。医療業界(病院や診療所、薬局など)においても、デジタルツールの活用は有効です。
ここでは、医療DXでできることを3つに分けて紹介します。
業務の効率化につながる
医療業界には定型業務が多く存在するため、DXの推進は業務効率化につながります。
例えば、在庫管理や診療報酬などの情報入力などにかかる負担を削減できたり、感染症や新薬などの情報を効率的に収集できたりします。
そうすることが、医療従事者の働き方の改善、ひいては人材不足の解消をもたらします。また、一時的な導入コストはかかるものの、長期的な運営コストの削減につながるのもメリットです。
BCPを強化できる
BCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)とは、地震や水害などの天災や、テロなどの人災が生じた場合に、被害を最小限にとどめ、事業を継続させるための計画です。
DXを進めることは緊急事態にも有効であり、BCPの一環となります。カルテを自社サーバや紙だけで保存していると、水没したり焼失したりするリスクがあります。一方、クラウド化したり外部にバックアップを保存したりすることで、迅速に患者情報にアクセスし、医療サービスを提供できるようになります。
個人の健康増進に役立つ
医療DXによって、患者もメリットを得られます。従来、複数の医療機関に点在していたデータが、一元管理されることによって、健康増進に役立てられるようになるからです。
例えば、患者自身が覚えていない検査結果なども医療機関に共有できるため、安全性が高まります。患者とコミュニケーションがとれない場合でも、アレルギーや常用している薬がわかると、より適切な処置につなげられるようになります。
2024年度に順次運用される予定の「全国医療情報プラットフォーム」は、患者の情報を医療機関が共有したり、電子カルテに登録する項目を共通化したりする取り組みです。これによって、患者本人は誕生から現在までの保険医療にまつわるデータを一元的に把握でき、母子手帳などの古い記録をわざわざ取り出して確認する煩わしさもなくなります。複数の医療機関の医師や薬剤師が情報を共有することで、いつでも切れ目なく良質な医療を提供できるようになると期待されています。
また現在、政府主導の「保健医療情報拡充システム開発事業」も進められています。これは、生命に関わるような救急医療の現場において、本人の同意が確認できなくても、マイナンバーカードによる本人確認で医療情報にアクセスできるようにするものです。緊急時に、特定検診や診療を受けた記録や、これまでに処方されている薬がわかることで、より適切で迅速な対応が可能になります。
医療DXの代表的な事例
情報通信機器を利用した医療行為を遠隔医療といいます。そのうち、診療行為をリアルタイムで行うものをオンライン診療といい、新型コロナウイルス感染症の流行期に、医療機関の受診が難しい患者や宿泊療養施設の運用で活用が進んだことから注目が高まっています。
これら遠隔医療の実現も医療DXのひとつで、患者の利便性向上、ひいては健康増進につながります。医療従事者にとっては、業務の効率化です。
遠隔医療の一例として、患者が自宅で計測した体温や血圧などのデータを医療機関と共有できるアプリについてご紹介します。
糖尿病や高血圧症といった生活習慣病の患者にとって、数値の変化を記録して自己管理を行うとともに、医師や管理栄養士等からの適切な助言を受けることは重要です。しかし、症状が安定していて通院が数か月に1度程度の場合、継続的なサポートが困難というケースもあります。そこでこうしたアプリを導入し、日々の健康状態を記録・報告するようになれば、かかりつけの医療機関は、通院しない日の状況も確認できます。
また、アプリへの記録によって変化がグラフ等の形で簡単に確認できるようになることは、患者のセルフコントロールの助けにもなります。生活習慣病を抱えて暮らす患者は、自宅や職場でも食事に気をつかいながら生活しなければなりません。スマートフォンで気軽に使えるアプリは、治療から脱落しにくくする効果を持ちます。
このほかにも、医療機関ではすでにさまざまな医療DXの実践が進んでいます。病院におけるDXについてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
関連記事:病院におけるDXの事例は? 最新の医療DXの取り組みを解説!
医療DXが進まない理由
一方で、医療DXには未だ課題も山積しています。代表的なものを3つ紹介します。
IT人材の不足
医療DXが進まない大きな理由のひとつに、医療施設のIT人材不足があります。
そもそも、多くの医療機関は、少子高齢化と労働環境の問題を背景とした人材不足に悩まされており、時間のかかるIT人材の育成に注力することは困難です。
担当者のITスキルに問題があるため、業務効率化を目的に入れたシステムを使いこなせず、逆に時間がかかってしまう場合もあります。そのため、豊富な実績を持つベンダー等の存在が不可欠です。
セキュリティの問題
さらに、セキュリティの問題も足かせとなっています。
従来の医療機関は、外部のネットワークと隔絶したネットワーク環境を構築したり、そもそも電子化を避けたりすることで、ネットワークセキュリティ上の脅威を避けようとしてきました。医療DXの必要性が周知されるようになってからも、今までの認識が変革を邪魔しているケースがあります。
外部との接続が必要なDXでは、医療業界に適したセキュリティ対策が施されたツールを活用すべきです。
予算の不足
医療DXを推進するためには、それぞれの医療機関に合わせたシステムの導入が必要です。システムによっては高額になるため、予算の不足がDXの妨げになっているケースもあります。とくに、大規模な病院では数千万単位でコストがかさむ傾向にあり、予算の捻出は容易ではありません。
医療DXに使える補助金
医療DXの推進には、国の「IT導入補助金」が有効です。これは、経営課題の解決に向けたITツールの導入を支援するための補助金です。経済産業省が所轄しており、電子カルテ、医療デジタル画像管理、レセコンなどの導入に活用できます。
ただし、申請にあたっては、常勤の従業員が300人以下であることなど、要件を満たす必要があります。また、年度ごとに申請の枠組みが異なる場合があるため、利用を検討されるのであれば、ご注意ください。
関連ページ:IT導入補助金2024
まとめ
医療DXは、業務効率化やBCPの強化につながり、医療現場での必要性がますます高まっています。データの一元化や遠隔医療の発展は、患者の健康増進にも寄与します。
ところが、医療DXには課題もあり、必ずしも現場ニーズには十全に応えられていません。補助金などを上手に活用しながら、それぞれの医療機関に合った医療DXの強化を図る必要があります。
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